僕は、転生した理由を知りたいとは、思わない。

蘇 陶華

第1話 ここに居る僕にとっての不幸

「あの夢を見たのは、これで9回目だった」

夢見が悪い。

よく言うよね。

僕にとっての朝は、こんな感じ。

気分悪い朝。

思い出したくもない夢だったけど、こんな思いを9回も迎えている。

「10回目は、あるのか」

見たくもないよ。

初めて見たのは、19歳の誕生日だった。

そこから、繰り返し見ている。

いたって、僕は、平凡で、他人より平均以下。

見た目も、知能も、経済的にも。

奨学金で、入った大学生活も、バイトで、何とか、生活している。

学業との両立なんて、はるかに難しく、このまま、大学生活を辞めようかと思っていた。

悪い事は、重なるもので、実家の工場が潰れたと連絡があった。

父は、借金とりから、隠れるように、姿を消した。

母は、妹を連れて、僕のアパートに現れた。

逃げ場もない。

このまま、僕らは、どこか、遠くに行って、生活すればいいのか。

この世での、僕の人生は、いつも、暗い影が付き纏っていた。

あの夢を見たから。

僕は、夢の中で、眷属の王として、人々に崇拝されていた。

神に仕える者だった。

神聖であるべき僕は、神女に恋をしてしまった。

神の供物に横恋慕してしまった。

そこからの、僕は、人から崇拝されるような存在では、なくなっていた。

穢れなきもの。

などではなく。

彼女を手に入れる為、悪事を重ねた。

人に言えない事もしてきた。

悪い事は、できない物で、僕の悪事は、神の耳にも届いた。

罰せられて当然なのに、僕は、罰せられる事は、なかった。

彼女が、神の怒りをかった。

「二度と、合わせる事はない」

僕らを引き裂いた。

僕の眷属の力を奪う代わりに、彼女を罰した。

僕は、何年も、生きた。

十年、百年、一千年。

僕に安らぎは、訪れなかった。

自分を置いて、周りの者が去っていく。

そんな哀しい夢だった。

まるで、映画のように、何度も、繰り返す。

起き上がった時は、鼻水と涙で、ぐちゃぐちゃだった。

「また、泣いていたわよ」

妹が言った。

狭いアパートで、僕ら、3人は、並んで寝ていた。

あの夢を見始めたのも、妹達が、ここに移り住んでからだった。

「泣いていた?」

「凄く、哀しい声だった」

妹は言った。

実家が、倒産して、まだ、高校生だった妹は、転校を余儀なくされ、泣きたいのは、妹の方なのに。

僕は、夢を見て泣いている。

「どんな夢だったの?」

「う・・ん」

言っても、わからないだろう。

僕は、うなづくだけにした。

「私も、変な夢を見るの」

「え?どんな夢?」

「9回産まれ変わる夢」

「9回?」

9という数字に、僕は、反応した。

「そう。9回。生まれ変わるの。思い通りには、させない。そう、誰かの声が聞こえるの」

僕は、妹の顔を、まじまじと見つめた。

遠く離れて、暮らしていて、成長した妹の顔をこれほど、まじまじと見た事はなかった。

「え?誰の声?」

妹は、笑った。

「それは、お前がよく知っている。そう聞こえる」

あぁ・・・。

僕は、初めて気がついた。

これが、本当の僕への罰でしょうか?

やっと、巡り会えた人が、僕の妹になっているなんて。

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僕は、転生した理由を知りたいとは、思わない。 蘇 陶華 @sotouka

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