前世の記憶は夢の狭間に

龍神雲

第1話 前世の記憶は夢の狭間に

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 天空に浮かぶ白を基調とした球体の城、天球城てんきゅうじょう。その室内をぐるりと一周するようにはめ殺しの窓がある。その窓の外には分厚い雲が浮かび、雲の切れ間から太陽光が時折輝くが、穏やかな天候に現を抜かす間もなく、

「また、あなたですか。何度ここへ足を踏み入れれば気がすむのですか?」

「申し訳ございません」

 不穏な声の奏が互いに重なった。女神の雷の轟きのような語調は天球城の雰囲気を飲み込み揺るがしていく。

「けど……」

「言い訳無用!」

 ぴしゃりとした女神の語調は落雷の如く市河いちかわみきに向かい、次には女神の蹴りで天球城から外へ蹴落とされてしまうが、パッと弾けて割れた窓は柔らかく、痛みもない。

 きらびやかな純白の衣をまとう女神を仰ぎ見れば色白く、桃色の瞳は慈愛のような色合いだが、今日もみきを見る目も対応も厳しい。

 緩やかに落下する最中、みきの脳裏に前世の記憶が蘇る。

「私はもう、大統領じゃない!」

 女神に向かって叫んだ。強い否定をしなければこの夢は終わらない。何故なら自分の国も命も守れなかった喪失感が天球城を創造し、後悔の感情が女神を産み、更に天球城に棲みつき、みきを責め立てるようになったからだ。だが今は大統領ではなく民衆を動かせる力も権限もない、みきはただの、女子中学生だ。

「私にどうしろと言うの?」

 国が滅ぼされた今、みきがなすことは何もない――もっとも、国は存在せず跡形もなく消えたのだ。

 次に目覚めると今度はスーツにネクタイ姿の状態で鏡の前に立っていた。

 浅黒い肌、痩せこけた体躯、性別は男性、言わずもがな前世の自分の姿だ。どうやらまだ、前世の記憶に囚われているらしい。

《同じフェーズに移行します》

 無機質な声が頭の中で響いた。

(もう、繰り返したくない)

 目の前にはまたもや天球城がそびえ立ち、窓からは女神が見下ろしている。女神と目が合うが冷たいままだ。

「私は次に進みたいの。大統領じゃなく、中学生として生きたいの……」

 夢の中の女神は微笑まず窓から離れていくが、説得しに天球城の階段を上がる。恐らく天球城も女神もみきの出す結論に納得しないだろう。

「今を生きさせて」

 10回目はもう見たくない。

 〈了〉

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