「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」とハシビロコウは言った。
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トリの降臨
「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」
私に向かってしみじみと告げたのは、ハシビロコウ。
『先史時代の鳥』や『恐竜のような鳥』と呼ばれる大型の鳥だ。
巨大なくちばしが奇妙な外見を作り上げており、なかなかに迫力満点である。
だが、別に私は驚かない。
ああ、またか……と思った程度だ。
何故なら……、私がこんな夢を見るのは9回目なのだから。
月に一度程度、どういうことだかわからないが、私は巨大なトリが降臨する夢を見るのだ。
1回目は、アメリカグンカンドリだった。
翼を広げた場合の大きさはおよそ230センチメートル。繁殖期のオスの、赤い喉袋が風船のように膨らんで「あの夢を見たのは、まだ1回目だ」と私に言った。
2回目は、ナガエカサドリ。
まるでリーゼントのような、特徴的な冠羽。胸の部分にねくらいのような肉垂れがある。これは膨らませることができると同時に求愛行動に使用されるらしい。
コイツが空から舞い降りてきて、私に向かって「あの夢を見たのは、まだまだ2回目だな」と言った。
3回目はカタカケフクチョウ。
オスが持つ明るい青色の冠羽。胸は青紫色。漆黒な背部という美しい外見がユニークなだけでなく、オスが求愛のダンスを踊ることによって有名な鳥だ。
ソイツも「あの夢は、まだまだ見続ける。これで3回目だとしても」と言った。
4回目、5回目、6回目……と続き、さっきのハシビロコウで9回目。
もはや驚くに値しない。
むしろ次は何のトリの降臨があるのか……などと思ってしまう。
しかし、なんだって、こんな夢を見るのかな私は……。
ぼりぼりと頭を掻きながら、ベッドから起き上がる。カーテンの隙間からこぼれてくる朝の光が妙に眩しい。
妻は、疲れているのがすやすやと寝たままだ。
とりあえず、私はキッチンに向かい、コーヒーを淹れ、パンを焼いた。
そのパンをもそもそと食べていると、妻がゾンビのように起きてきて、そのままトイレに向かった。具合が悪いというか、体が重そうだ。
トイレから出てきた妻は、そのままソファで丸くなった。
「体、冷やしたらダメなんだろ」
そっと毛布を掛ける。
妻は私に「ありがとう」と言った後「ごめん、生理始まったから、今日は寝ているわ……」と目を瞑った。
「朝ごはん、食べられそうなら、何か作ろうか?」
「食欲、ないなあ……」
「スープか味噌汁は?」
「具ナシなら」
「じゃ、だしパックでお出汁とって、味噌だけとかすか」
妻に言って、私はキッチンに向かった。
トリの降臨の夢。
その意味を考える。
9回、私に告げてきたセリフ。
では、10回目はどんなトリが降臨する?
そうしているうちに、また一か月程度が経過して、10回目のトリの降臨の夢を見た。
10回目はコウノトリだった。
ソイツは私に言った。
「ああ……、ようやく新しい夢が見られる」
9回目までとは違う予感。
私は横で寝ている妻の顔を見た。
じっと見つめていたら、妻の瞼が動いた。
「……おはよ」
「おはよう」
むっくり起きた妻は、そのままトイレに向かった。
しばらくして、妻が私に向かって叫んできた。
「見て見て見て見てっ! ようせいっ!」
妖精?
違う、陽性だ。
妻が、掲げるようにして持っているのは妊娠検査薬。
陽性反応が出ているということは、もちろん妊娠をしたということだ。
尿が付いたスティックを、まるで勇者が持つ聖剣のように、天井に向かって掲げるのはどうかと思うが、それだけ喜んでいるのだろう。
タイミング法を試してみて10回目。生理が来るたびにがっかりしてきた妻の、その久しぶりに見た晴れやかな笑みに、私も嬉しくなる。
「飛んだり跳ねたりはしないでくれよ。体は安静に」
言って、妻を抱きしめる。
「ありがとう」
振り返って考えて見れば、夢に出てきたトリたち……アメリカグンカンドリもナガエカサドリもカタカケフクチョウも、みんな求愛行動をするトリで……って、あれ?
「9回目のハシビロコウは……求愛行動をするトリか?」
首をかしげてしまった。
あとで調べたところ、ハシビロコウはペリカン目ハシビロコウ科の鳥。
だけど、以前はコウノトリ目コウノトリ科に分類されていたらしい。
DNA分析の結果を受けてペリカン目に移り、独立してハシビロコウ科となったとか。
で、10回目はコウノトリ。
「なるほど……?」
とにかく9回、赤ん坊が来てほしいという夢を見て、10回目にその願いがかなったということだ。
コウノトリが、妻の腹に運んできた我が家の妖精は、無事、十月十日後、生まれてきた。きっとこれからは、この赤ん坊が無事に育ってほしいとか、病気をしないでほしいとか、10どころか100も1000も、夫婦で新しい夢を見ていくのだろう。
ぼぎゃあほぎゃあと可愛らしくもか細い声で鳴く赤ん坊。
まずは一つ目の新しい願い。元気に育てよと、心の中で願ってみる。
妻を「お疲れさん。産んでくれてありがとう」と労う。
「可愛い。すっごく可愛い。ほにゃほにゃしているところも、泣いてる声も、なあんて可愛いのー。うちの子、妖精よ、天使だわ~」
妻がハイテンションで言った。
もちろん可愛い。
ものすごく、可愛い。妻も赤ん坊も。
だけど。
可愛い我が子が、少しだけ鳥っぽい顔つきをしていると思うのは……、気にしすぎ、なのだろうか……。
終わり
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こんにちは、藍銅 紅(らんどう こう)です。
『KAC2025 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2025~』参加するぞーって思って、書きました(*´▽`*)
お題に基づいて創作っていうのが、大好きです。
普段書いているモノとは全く別のお話を書いてみようっていう気になるんですよねー。
でも、このお題。最初に見た時にはなんとなくホラー的なタイトルだな……と思ってしまいました。ホラーは書かないけどね、怖いから★
「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」とハシビロコウは言った。 藍銅紅@『前向き令嬢と二度目の恋』発売中 @ranndoukou
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