10回目のリアル

ゆる弥

10回目のリアル

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ココ最近毎日見ていた夢。

 それは段々と鮮明になっていった。


 この街が火の海になる夢。

 あの焦げた火の匂い。

 逃げ惑う人の顔。


 全てがリアルで俺の心を焦らせる。これが本当になったらとんでもない事だ。本当になるなら、どう動く。

 

 今日一日そんなことを考えていた。考え事をしながら歩いていたらあの夢で歩いていた道筋をトレースしている。


「キャッ!」


「おう。危ねぇ気をつけろ!」


 街行く馬車に飛び出した女性がぶつかりそうになる。心臓の動きが徐々に早くなっていく。


 まずいまずいまずい。


 この光景見たことがある。あの夢の通りだ。そして、このまま歩いてこの道の端にある家までたどり着いた頃、街の入口が火の海になる。


 考えるより先に身体が動いた。

 今日一日ずっと考えていたことがある。

 あのドラゴンはそこまで強い個体ではない。


 ファイアードラゴンだが、未成熟だった。それならば、戦う術はある。


 肩にかけている大剣を触り、帯剣していることを確認する。


 ある。夢ではなかったけど、今日は帯剣していた。それも、あの夢を見たからだ。


 あの夢はもしかしたら、誰かがこのリアルを回避する為に見せていたのかもしれない。準備は万端だ。いける。


 街並みが矢のように過ぎ去り、通行人には不思議な顔で見られた。だが、そんな事を気にしてはいられない。


 もしドラゴンが来るのなら、街の入口付近だ。もう少し出入口に着く。


「キャァァアァァ!」


 悲鳴が聞こえた。

 街の入口の前を歩いていた人が頭上から来る巨大な何かを察知したからだ。


 何かがおかしい。

 頭上から迫り来る物はあまりにもデカく。

 威圧感を放ちながら目の前に降り立った。


「クッソォ! デケェじゃねぇか!」


 横からそんな声が聞こえた。視線を送ると盾を持った大男がいる。目を疑った。こんなの夢では見なかったじゃないか。


 どうなってる?


「おい! あんたもコイツとやりに来たのか!?」


 横にいた大男から問われる。


「そうだ!」


 頷くと再びファイアードラゴンに視線を向ける。


「もしかして、夢……か?」


 ハッとして目を見開き、思わず視線をドラゴンから大男へ移す。そして、頷く。


「ハッハッハッ! アイツらもみたいだぜ?」


 大男が顎で指した方を見ると、杖を持った魔法使い。ショーソードを持った盗賊のような格好をした者がいる。


「もしかして、みんな夢を?」


「あぁ。何かに導かれたみてぇだなぁ」


 大男は肩を回して気合を入れた。


「オォォォッシャァァァァ! オマエラァァァア! 街を救うぞぉぉぉ!」


 叫びながらドラゴンの攻撃を受け止めに行った大男。あんなとこ見せられたら、俺達だってやらない訳にいかないでしょ。


「「「オォォォォ!」」」


 皆で呼応し、ドラゴンへと駆ける。


 俺達の見る10回目の場面。


 夢ではなくリアルを守る戦いが始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10回目のリアル ゆる弥 @yuruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ