(八)幼馴染みはコリない
「あ」
「何? どうしたの龍治」
オレは自宅の玄関で、あるものを見て声を出した。両手にお土産を持ちながら。
「父ちゃん、帰ってきてんのか」
「そうよ」
今日、全然顔を見ていない親父の靴を見ながら、オレは自分の靴を脱いでいる。
「屋台の焼きそばを買って、帰ってきたわよ」
「……ふーん」
「もうグースカ寝ちゃっているけどね。焼きそばは明日に食べたら?」
「……ふぅーん……」
「ふーんて何よ、もうっ……フフッ」
なぜか母ちゃんは笑いながら、家の中へと進んでいった。
屋台の焼きそば……まあ、あれは確かにうまい。というかパチンコ店の屋台グルメは、どれも侮れない。たこ焼き、お好み焼き、唐揚げなどなど……これまで親父が買ってきたものは全てナイスだった。
それでも1日中パチンコをして良いわけではないが……と、そんなことを考えながらオレも母ちゃんに続いた。まずは冷蔵庫に、このお土産たちを入れなくてはならない。しかし今日は……いや今日もか? とにかく食べ物に恵まれていた。うん、食べるのに困らないというのは素晴らしいことだ。一生そうであっていただきたい。だから親父よ……ギャンブルは、ほどほどにしてくれ。
淋しさが紛れたというのに、またちょっと淋しくなってしまった。とりあえず台所へ向かおう。
「そんでトイレ寄って洗面所で手洗い歯磨きして自分の部屋行って何曲か聞いて寝た」
「濃い日曜!」
「お前、声でけーよ。休み明けの朝っぱらから、うっせーな」
真男のバカでかい声によって、教室にいる何人かがチラッとオレたちを見た。ただ2人で「昨日、何してた?」と話していただけだが。
まあ確かに濃い日曜日ではあったと思う。朝から道場破りを倒す。太極拳の指導をする。いっぱい中華スイーツをいただく。ちびっ子たちの目の前でカンフー披露。大食いチャレンジ成功。夜中にカラオケ……。
「いやいや! 大声に休み明けも月曜も朝も関係ないっしょ!」
「素直な奴……」
地味に自分の声の大きさを認めている……ってか開き直ってんだろうな、真男の場合は。
「そうかぁ~。おれたち
「おいおい、堪能って」
「まっ、いーじゃんいーじゃん!」
「お前……んっとに……」
オレはマイペースな幼馴染みに、つい吹き出してしまった。こいつとオレの付き合いは、もう10年以上経っているけれど……いつまでもおもしろい奴だ。
「ウケたっ! やったぜイエイッ!」
「はいはい。毎日おもしろいよ、お前は」
「そんで龍治、おばちゃんたちから胡麻団子とか貰ったんだよな?」
「そうだよ。それがどした?」
「うまかったんだよな?」
「ああ。さっき言ったじゃんかよ」
「そうかぁ~……。ってことはさ、ど偉いことになっちまったんじゃねーの?」
「……何が?」
「何がって、そりゃ龍治の胡麻団子が立派に」
「なるかあっ!」
こいつ、やっぱりそういう話に持っていくか!
ってか胡麻団子って聞いた後に否定するオレもオレだ……。もうこいつの下ネタを何個も聞かされているが故の悲しき習性……。
「いやだってそんなにうめぇスイーツならさ、作ってくれたおばちゃんたちに龍治がホレ直しちまってぇ……それで興奮して龍治の胡麻団子も」
「あんな素晴らしき甜点心を下品にすな!」
「何だよぅ……せっかくオブラートに包んでやったのに怒りやがってよぅ……くうぅ」
「泣き真似キモッ」
「うぅ~……くそぅ、こうなったらストレートに言ってやる! 龍治の胡麻ちニャッ!」
はい強制終了。
「うわ真男ちん、またくたばってる……」
「龍治に余計なこと言うから……」
真男の悲鳴を聞いたクラスメート数人が、オレたちの元に来た。まあ心配しなくてヨロシ……いや、していなさそうだな。
「真男ちんの奴、龍治に何回ツボを押されりゃ気が済むんだろうね」
「うーん、それはオレにも分からないアルなぁ」
机の上でグテッとしている幼馴染みに、オレは「アチョッ」と軽く手刀を加える。すると「あぁ~っ! スッキリ!」と言いながら、アホの生田は起きた。
「お前はオレから、何度ツボを押されても懲りないな」
「ハッハッハッ。おかげさまで、健康健康! 体も軽い軽いっ!」
黙らせたと思ったら、すぐにうるさい。こっちは制裁のつもりなのに、ますます奴は元気になっている。目覚めた後は、こうして笑っている真男。しかしツボを押された直後の表情は、なかなかのアへ……いや、やられ顔である。今回はなかったが、よく涎を垂らしているし……。よし。いつか、あのだらしない顔をスマホで撮って見せてやるか。
「そういや、前から気になっていたんだけどさ」
「おうっ、何だ何だ?」
質問の予感がして、真男がバカ笑いを止めた。オレも何だか気になったので、とりあえず視点を変える。
「龍治ってさ」
「ああ、オレだったアルね哈哈哈」
オレに対する質問だった。真男は「何だよぅ」と少し残念そうにしているが、無視。
「真男ちんと喋るときには、あんまりアルヨロシ言わないよね。何で?」
お、なかなかの鋭い質問。答えは……。
「そんな余裕を与えないくらい、こいつがアホだからアルよ」
「またまたぁ~。そんなこと言っちゃってぇ~」
ニヤニヤしながらオレの頬をツンツンしているのは、もちろんアホの生田である。
「照れ屋さんだなぁ~、龍ちゃんはぁ~……素直におれは特別だからって……好きって言っちゃえば良いのにさアッ!」
「しつこいアル。黙るヨロシ」
真男は色々な意味で、コリない奴だ。
クラスメートたちに笑われながら、アホはガクッと崩れた。やれやれ……先生が来たら、また「アチョッ」と起こしてやるか。
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