(七)「もう」なのか「まだ」なのか

「母ちゃん、わざわざ迎えに来なくてヨロシ。オレ、もう17歳アルよ?」

「何言ってんの龍治! あんたは、まだ17歳でしょうがっ!」


 オレたち母子は店を出てから、車の中で言い合っている。近場だけれど防犯のためだと、母ちゃんはオレを車で迎えに来たのだ。オレは家から店まで歩いているが。


「未成年が夜中にカラオケなんてするもんじゃないのっ!」

「オレは未成年だけど、カンフー道場の師範代を任されている身アルよ? それに……もし輩が出てきても、今朝のように倒せるアル。心配しなくてもヨロシ」

「もうっ、それとこれとは別でしょ! あんたがどんだけ強かろうが、カンフーの先生をしていようが……世間のルールは守りなさいっ!」

「はーあ。何だか矛盾しているような……どうしても理解できないアル」

「っとに……あんたは毎回毎回お土産も、こんなに貰ってきちゃって……」


 この車内には、オレが食べ切れなかった料理が積まれている。ビニール袋に入った、容器に詰められた中華料理の数々。持ち帰りOKの店は本当にありがたいものだ。店内その場で食べ切れなくても、自宅で食べられるのだから。まあ母ちゃんが強制終了さえしなければ、オレは完食できたが。


「明日の朝食ができたアル。もしかしたら弁当もできるかも……。おかげで母ちゃん、楽できる。喜ぶヨロシ」

「まあ、それはねえ……。って、そういうことじゃなくてっ!」

「おお、ノリツッコミ上手アルな」

「あんた……これだけいただいておいて、お代を払わないのはおかしいでしょ! カラオケだって何曲も歌わせてくださったのに……」

「その件は、もう解決済みアルよ? 怒らずに、落ち着くヨロシ」


 そう、オレは全然お金を払わずに帰ることができたのだ。だが、これは今に始まったことではない。それに……こんなことが可能な理由は、きちんとある。


「母ちゃん、そんなに興奮して良いアルか? どんなに近くても、安全運転するヨロシ」

「もうっ、あんたが母ちゃんを怒らせてんでしょうが!」

「交通事故は嫌アル。オレ、長生きしたいアル。しかし長生きの薬、世にない。もう迎えに来なくてヨロシ。門限でも定めるヨロシ。オレが時間内に帰ってこなければ、家に入れないようにするとか……」

「そんなもの作ったって意味ないわよ! どうせ、あんたが色々な意味で破るでしょうがっ! 昔、父ちゃんが入っているのに無理矢理トイレのドアを開けたのは誰?」

「アイヤァー……。まだ覚えていたアルか……」


 それは昔、自宅で起こった出来事……。ある日なかなかトイレから親父が出てこなかったので、もう我慢ができなかったオレは「ホアァーッ!」と正拳突きで戸をブチ破った。すると既に手も足も出ない状態だった親父は、ギョロッとした目でオレを見ていた。まだ親父の体から、何かが出続けていたのだろう……。そして何を食べたせいで、あんなに長くトイレと仲良くしていたのかは覚えていない。

 その直後オレは、ドアが壊れる音を聞いて駆け付けてきた母ちゃんに「コラーッ! 龍治ぃっ!」と怒られてしまったという……。しかし不思議なもので、長々と説教は続いたのにオレは漏らさなかった。それなら、わざわざ戸を破壊しなくても大人しく待っていれば良かっただろう……というツッコミは入れられても仕方がない。


「あんな衝撃的な事件、忘れられるわけないでしょ! ああ……もう母ちゃん、ドアのないトイレなんて絶対に嫌よ! 修理代だって、二度と払いたくない……。ただでさえ父ちゃん、あのときは腹痛で気の毒だったっていうのに!」

「まあまあ母ちゃん。別に嘆かなくてもヨロシ。中国の便所には戸がないアル」

「ここは日本!」


 こんな痴話喧嘩をしていても、オレたち母子は無事に帰宅できた。


「とりあえず、持ち帰った餃子を食べて落ち着くヨロシ」

「それは中国でのお笑いのオチでしょ!」

「哈哈哈。あっちのネタは餃子で終わらせるのが、お約束アル」

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