(六)カラオケ大好き龍治さん
「……ほあーあっ……」
夕食やら入浴やらが済んで、もう寝るだけ……となった日曜日は精神的にキツい。寝てしまえば起きたら月曜日なのだ。つい暗くなって、ため息が出てしまう。
「……よしっ」
気分が晴れないオレは横になっていた体を起こし、自室を出た。そして……。
「母ちゃん、オレちょっと出掛けてくる!」
「まあ、どこ行くのよ龍治! あんた、もうご飯もお風呂も済ませてんのに……」
「そんな遅くならないようにするヨ」
「コラッ、待ちなさい龍治!」
「行ってきま~すっ」
「……もうっ! 早く帰るのよ!」
「はいは~い」
オレは渋々な様子の母ちゃんに背を向け、そそくさと家を出た。ちなみに今のオレは寝間着姿であるが、決して恥ずかしい格好ではない。昼間に着ていた中華服と似たようなものを着ているからだ。もし夜道に変な奴が現れた場合、闘いやすい服装でもある。
「こんばんは~」
「おっ、来たか龍ちゃん!」
オレが来たのは自宅から近い、24時間営業の中華飯店だ。かなりお世話になっているので、オレは全ての店員さんと仲が良い。
「で、何する?」
「とりあえず、歌わせて欲しいアル」
この中華飯店はカラオケ付きなので、オレは来ると必ず歌っている……もちろん食事もするが。ちゃんと夕食を食べても腹は減る。しっかり、おかわりもしたのに。
「了解。ちょうど客がいないから、一人占めできるぞ。ラッキーだな!」
「じゃあ遠慮なく……いっぱい歌うアル!」
この休日終わりの憂鬱を消すのには、持って来いの状況だった。とにかく歌って食べて楽しくなるとしよう。
「龍たん、本当に歌上手ね~」
「ほら龍治、もっと食えよ!」
「なあ龍よ。次は、あの曲を歌ってくれるか?」
「龍治きゅん、これも食べて~」
店員さんは、いつだってオレを歓迎してくれる。好きなだけ食べて歌っているオレに、みんな優しくしてくれるのだ。楽しくて楽しくて最高である。だからオレは毎日のように、この店に来てしまう。
ちょこちょこ料理を食べながら、オレはノリノリで歌っている。しかし、
「お龍、ママ来てる」
もう帰る時間となってしまった……というか時間が過ぎていた。お知らせしてくれた店員さんである、ギャルのお姉ちゃんをチラ見し、オレは「これ歌い終わったら帰る!」とマイクを持っていない手で表示した。ただパッと開いた手を、お姉ちゃんに見せるだけのアクションだ。
「コラ、龍治! あんた結局、帰るの遅くなってんじゃないの!」
さっきは外にいた母ちゃんが、とうとう入店してしまった。それでもオレは最後の1曲を歌い切る。怒っている母ちゃんの声が聞こえてくると、またオレはパーにした片手を出した。それを見たのか母ちゃんは「もうっ!」と言い、そんなオレたち母子を見た店員さんたちは笑っていた。
あんなに暗かった日曜日の夜中が、こんなにも明るくなるなんて最高である。ああ……オレは今、幸せだ。
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