妖精【KAC20253】

郷野すみれ

第1話

 ったく、うるせーんだよ! なんだ、この「自称妖精」は。


「ねえねえ、寝ちゃうの?」


「あの犬見て。お散歩の後のご飯を考えながら歩いているよ」


 思春期の頃、どこからともなく、俺の周りを漂うようになった「自称妖精」。

妖精はもっとふわふわしていて可愛いやつかと思っていたのに、こいつは単なるうるさい子供だ。


「おい、お前、羽が生えてひらひら〜って飛んでるやつじゃないのか? なんだよ、ミニチュア子供みたいな見た目しやがって」


 漂い始めた頃、実際に聞いたことがある。


「えー、だってあれは人間が勝手に作り出した妄想の産物だよ。実際は羽なんか生えてないし。某ピーター○ンの影響とか大きそうだよね」


「ふーん。どうせ周りを漂われるんだったら、男か女かもわからない子供のちんちくりんよりも、イメージ通りのキレイなやつの方が良かったけどな」


「ひ、ひどい!! 僕だって可愛いもん」


 一応妖精だからか、豆知識は豊富に持っていたり、動植物の気持ちを代弁してきたりする。


……動植物の気持ちに関しては、こいつがデタラメを言っている可能性もあるが。


 今は、大学進学を機に上京し、一人暮らしをしている。妖精は相変わらずついてきた。


 人前で話さない良識はあるが、あまりにもおしゃべりでうるさくて、時々うるせーと怒鳴りつけてしまいそうになる。


 あと、テストとかやっている時に答えを教えてくれればいいのに、なぜか「カンニングとかズルになるから」と言って固辞してくる。


「お前さ、もう少し静かにできない? あ、チャーハンの作り方ってなんだっけ」


「……なんか僕のこと、便利なア○クサだと思ってない? 現代人なんだから、妖精に頼らずスマホで調べてよ」


「そうだな、頼るべきはスマホと友だな」


「友達いないくせに……。ついでに彼女もいたことないくせに」


「あ? なんか言ったか?」


「いえ、何も。ちなみにチャーハンを作る時のコツは……」


 寝ようとしている時もなかなかうるさい。


「ねえ、課題やったの? レポート書いたの? 寝ちゃうの? つまらないじゃん」


「うるせえ……」


「今日見かけた犬、あんまり君のことは気にかけてなかったよ。でも、買い物の帰りで袋を持っていたら獲物として認識してやってきただろうから、買い物の行きでよかったね」


「そうか……」


「今日の最高気温は15度、最低気温は6度だったよ」


「天気予報……」


「明日の予想最高気温は13度、予想最低気温は4度だからその寝巻きだと寒いと思うよ。あれ、寝ちゃった」

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妖精【KAC20253】 郷野すみれ @satono_sumire

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