顔面凶器所持
ちびまるフォイ
複数のきょうき所持
「落としましたよ、ハンカチ」
「きゃ、きゃーー!! 殺人鬼!!」
「え、いやそんなことしてませんよ」
すぐに警察がすっ飛んできて銃を構える。
「動くな!! 早く凶器を手放すんだ!!」
「なにも持ってませんよ!?」
「早くしろ!! さもなくば発砲する!」
「何を持ってるっていうんですか!」
「凶器だ!!」
警察はおびえを含む顔で叫ぶ。
「その顔面は怖すぎて凶器に等しい!!」
結局、つっぷしたところで手錠をかけられた。
有数の邪悪な犯罪者が収監される地下の牢獄に通される。
「あの、僕の罪はいったいなんですか?」
「顔面凶器所持法違反だ」
「ええ……? そんなの生まれつきじゃないですか」
「じゃあお前は公衆の面前で全裸になるのか?」
「いえ。それがなにか?」
「同じことだ。お前の顔面はいかつく怖い。
マスクもつけず抜き身で歩くなんて正気のさたじゃない」
「……じゃあ、マスクつければいいんですか」
「いやお前の場合、その鋭すぎる眼光だけでも罪になる」
「八方塞がりじゃないですか!! お面でもつけろと!?」
「それだと画面秘匿の罪で逮捕される」
「救いがなさすぎる!」
「いいか、顔なんてのはその人の人間性を映す鏡だ。
お前がこの刑務所で心から更正すれば、
きっと表情は優しくなるはずだろう」
「パーツ単位で変わることはないんじゃないですかね……」
こうして刑務所での生活が始まった。
毎日お花に水をあげたりして優しい行動を繰り返す。
それでも顔にはなんら影響しない。
「ダメだ。まだその顔は人を殺す顔をしている。
そんな顔のままシャバへ出すわけにいかない」
「無理すぎる……」
笑顔になっても不気味といわれ、
無表情だとなにを考えているかわからないと言われる。
「このままじゃ死ぬまで牢屋の中だ。
それならいっそ……こうだ!!」
その思い切った行動は他の受刑者を凍らせた。
壁には赤黒いシミができた。
翌日、凶器にも等しい顔は見事に変わっていた。
「お前……どうしたんだその顔……」
「もとの顔じゃどう頑張っても凶器なんでしょう?
だからここで作り変えたんです」
「なんてことを……」
何度も壁に打ち付けたりして顔は変形。
眼光鋭い殺人鬼の顔は、優しい顔へと変わっていた。
「これでもう顔面凶器所持法じゃないでしょう?」
「あ、ああ……そうだな。たしかに……」
「では、これでやっと外にーー」
「いや、まだだ。お前は所持している」
「え? でもこの顔はどう見ても……」
「ちがう。中身だ」
「中身?」
「内面狂気所持法違反で逮捕する!!」
「えええ!?」
ふたたび独房へと戻された。
鉄格子ごしに反論する。
「僕の何が悪いんですか!」
「顔を破壊して顔面を作り変えるなんて異常だ!
そんな狂気を持っている人間をシャバに戻すわけにいかない!」
「じゃあどうすれば出られるんですか!」
「その秘めたる狂気を捨てれば解放してやる」
「でも心の中なんて見えないでしょう。
捨てたかどうかなんて、どう判断するんですか」
「私の感覚だ」
「アバウトすぎる!!」
顔面の凶器を取り除けば、今度は内面の狂気を指摘される。
物理的に作り変えられる顔面よりもむしろ変えにくい。
「はあ……いったいどうやって内面を変えれば……」
ここは刑務所。
できることは限られている。
辛く苦しい刑務活動。
この環境で心を変える方法は……。
「ああ、そうだ。心を一度壊しちゃえばいいのか」
結局は顔面と同じ手段しかなかった。スクラップ&ビルド。
穴を掘って、また埋める。
それを何度も繰り返す。
絶え間なく流れる水の雫を体に当てて、
けして眠れないような拷問を続けてみたり。
内面の狂気があるうちに、自分の心を壊す行動を続けた。
献身的な精神破壊活動のかいもあり、
数日で目はうつろになって心は粉々に破壊された。
ふたたび訪れる出所判断の日。
「どうですか……? もう心に狂気なんてありませんよ」
「どれどれ。こ、これは!!」
聴診器を当てて心の声を確認する。
どこにも狂気性が感じられなかった。
「たしかに、心のどこにも狂気が無い……!」
「でしょう? 頑張りましたから。これで出所できますか?」
「待て。他の部分に凶器や、狂気を所持していないかチェックする」
「用心深い……」
「犯罪者を野に放つわけにいかないからな」
続けざまに行われる詳細な身体検査。
レントゲンや、顔診断、脳診断まで行われた。
それでもすべて数値は正常値だった。
「どうですか! もう僕を引き止める理由ないでしょう!?」
「たしかに。どこからも"きょうき"を検知しなかった。
いいだろう。お前はもう一般人だ」
「よかった……」
刑務所の重く分厚い扉が大きく開かれた。
久しぶりに見た太陽の光はまぶしく心地よい。
開放的な空を見上げると、大きく手を広げた。
「やったーー!! これで自由だーー!!!」
心から喜びの叫びをした瞬間。
解放した警察官がふたたび手錠をかけた。
「な、なにをするんですか。凶器も狂気も所持していないですよ」
「いいや。お前はたしかに所持している!!」
「なにを!?」
警察官は迷いのない目で答えた。
「狂喜所持法違反で逮捕する!!!」
顔面凶器所持 ちびまるフォイ @firestorage
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