唸れ! マスクドライダー・九頭

あぷちろ

第56話、妖しいお菓子には注意!


「報告します」

 窓ひとつない会議室の中、壁に投影された背広で身なりを整えた男性は手元の資料を繰る。

 齢の程は四十前後で、七三分けで整えられた頭髪と彼自身の表情から神経質な気質が見て取れた。男性は一人起立したまま話す。

「5月6日AM11時、所轄より入電あり。怪人を発見し避難誘導を開始。同時刻に監視部隊より『重点対象』の行動はみられずとの報告あり」

 男性は淡々と紙面に連なった文字を読み上げる。部屋に置かれた長机の反対側でその男性よりあきらかに年かさな男が無表情に座っていた。

「怪人の発見より32分後に対応ユニットが現着、対応を開始。……初期報告では、怪人は――いわゆる妖精に酷似した姿であったそうです」

 ちらり、と上長の表情を伺い見るがそこに何も変化を見る事ができなかった。

「続けろ」

「横川警部の判断により非殺傷弾を使用し制圧を試みるが失敗。一定の効果は認められたものの怪人は皮膚組織を強固なものへ変質させ、防御。すぐさま実弾による修正射撃を実施するも、制圧には至らず」

 男性は滔々と報告を語る。しかしよく見れば彼の額には脂汗が滲んでいた。

「しかしながら、怪人の破壊行動は抑制することに成功しており……」

「違うな」

 ぎしり、と椅子が軋む音がする。

「現状装備では怪人に対してなんら制圧効果を持たず、避難誘導までの時間稼ぎしかできなかったと……報告は確実にせよ、田上君」

「ハ。失礼いたしました」

 田上は綺麗に一礼すると、それ以上の発言はするつもりがないのか資料を抱えたまま動かない。

 部屋の中には書面を捲る音しか聞こえない。

「この怪人――亜号妖精とでも仮称しようか。行動は主にどのようなものであった?」

「私も確認できたのは画面越しですが、主な行動としては逃げ遅れた子供たちに菓子を配るなどしておりました。我々からの攻撃には防御行動以外は見せず……」

 田上は何かに思い至ったのか言葉を途中で区切った。

「……そういえば、現場はスーパーで怪人『亜号妖精』はしきりに店内の陳列商品に手に持ったステッキをかざしていましたね」

「ふむ」

 男は資料を捲り終えると思案する。そしておもむろに口を開いた。

「一つ聞きたい」

「は。何でしょうか鴻池警視監」

「亜号妖精は、まさしく妖精の姿をしていたそうだな? ――戦闘後に体調不良を訴えた隊員は?」

 田上は報告書、最後のページをめくり息をのんだ。

「盾を使用していた隊員数名が数日後に体調不良を訴えております」

 鴻池は矢継ぎ早に指示を飛ばした。

「すぐさまNBCに出動要請、事務方に現場にいた市民を割り出すように指示」

「は!」

 田上は最敬礼するとすぐさま足早に部屋を去っていった。

「かのは我々に何を求めているのか――」

 机に置かれた資料、その最後には荒い写真で赤いスカーフをはためかす戦闘服の男が写っていた。




 つづく

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