あの頃の空気が、ふと蘇るようでした。
制服の裾を揺らす風、教室のざわめき、ぎこちないまなざしのやりとり。ひとつひとつが静かに積み重なって、時間という河を渡る舟のように、物語は読む者の心を運んでいきます。
まっすぐで不器用なふたりの出会いが、やがて愛へと変わり、人生を共に歩む喜びへと昇華していく過程は、決して特別ではないかもしれないけれど、だからこそ尊く、胸に沁みわたります。どんなに時間が過ぎても、あの日交わした言葉や触れたぬくもりが、人の心を支える灯火になることを、この物語は丁寧に描いてくれました。
読み進める中で、私はページの向こうにもう一人の自分を見つけていました。連れ合いの闘病と重なり、途中で読むのをやめざるを得なかった日々。けれど、あの人を見送ってひと月が過ぎ、ようやく心がこの物語の続きを受け入れられるようになったとき、そこにあったのは悲しみを超えた「祈り」のような時間でした。
本作は、病と闘う苦しみや哀しみを描くだけではありません。むしろ、日常の中にあるかけがえのない光、たとえば食卓で交わす笑い声、季節のうつろいに寄り添う眼差し、家族の背中に託す未来……そうしたものを見つめ直す手がかりをくれました。
静かで、温かくて、決して押しつけがましくない優しさに、最後まで涙が止まりませんでした。
そして、まさ様へ。
この作品に出会えたことに、心から感謝しています。
第一話を読んでいただくと分かるのですが、本作のラストはそこへ向かって進んでいきます。
最期は決まっていると言っていいかと存じます。
けれど、そこへ至るヒロインの人生を丁寧に丁重に描いてくださっているので、悲劇ではないんじゃないかな?という気持ちが湧いてきたんです。
どこかの知らない誰かでも、その誰かも、かけがえのないたった一つの人生を生きる、かけがえのない一人なんだってことを思い出させてくれる胸を打つお話です!
語弊を恐れずに言うなら、どこにでもいるけれど彼女の代わりはいない、そんな強くて優しい女性と愛しい大切な人たちが生きた人生に触れてみるのはいかがでしょうか?
読み終わって涙を拭いたあと、きっと家族にも自分にも優しくなれると思います!