じゅうななさいはペンライト少女を推すのです。
音無 雪
ペンライト少女は夢を見る
大型モニターに映し出されるのは元気にパフォーマンスを見せる二人の女の子
ここは郊外にある大きなショッピングセンター 店舗中央に位置する吹き抜けにはステージが作られております。本日は地元アイドルさんのライブイベントが開催中です。
ダンスの合間に入るポーズがあざといまでに可愛らしいですね。
おそらくオリジナルの曲でしょう。彼女たちの魅力を最大に引き出しているように感じます。名前は存じ上げませんが思わず足を止めてしまうくらいに引き込む力がございます。
ステージ脇にはオーディオミキサーを操作しているスタッフさん。その後ろで手をたたいているスーツ姿の女性はマネージャーさんでしょうか。ビデオカメラを構えたスタッフさんもいらっしゃいます。
少し離れた机にはCDが並べられております。複数のジャケットが見えますので、すでにアルバムを何枚か出せるほどの人気があるようですね。
ステージ前には観客席としてパイプ椅子が整然と並べられております。50席ほどありますが埋まっているのは半分を少し切る程度でしょうか。名前だけで満席にするのは難しいようですね。それでも私のように足を止める人も多く席が埋まってまいりました。
そんな観客のなかでひときわ目立つ女の子がひとり
最前列でペンライトを手に応援をしております。アイドルさんの服の色に合わせているのでしょうか。ブルーに光るペンライトを打ち振って会場を盛り上げております。しかし他にはそこまでの熱量を持って応援しているファンの方は見られません。それでも臆することなく孤軍奮闘しております。
女の子に引っ張られるように手拍子や拍手が増えて良い雰囲気。アイドルさんの表情からも嬉しい気持ちが溢れ出ております。
§
盛況のうちにライブイベントは終了しました。続いてCDの即売を兼ねた握手会に移行します。
CDの購入に行列が出来ておりますね。今回のライブでファンになった方もいらっしゃるようにお見受けいたします。
行列が切れるのを待って最後に握手をしていたのはペンライト少女さん
「いつもありがとうございます」「ペンライト嬉しかったです」
弾けるような笑顔のアイドルさん。営業トークではなく心からの感謝なのでしょう。手をぶんぶん振りながらの握手をしております。
「サビのところの笑顔が素敵でした。ドキッとしましたよ」
細かいところまで見ているのですね。しかも褒め方が的確でございます。褒める達人の称号を差し上げましょう。良いファンをお持ちのようです。大切にしてくださいませ。
思わぬところで良いものを見せていただきました。心温かくなりますね。
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――――
週が変わり休日がやってまいりました。本日はデートでございます。
近所にある小さなショッピングセンターにやってまいりました。ちなみにデートの相手が殿方とは限りません。組んだ腕に圧倒的なやわらかさを感じながら歩いております。格差でございますね。(遠い目)
ここの二階にお目当ての手芸屋さんがございます。店の奥の壁にはボタンの入った小さな引き出しがびっしりと並んでおります。ボタンの品ぞろえが幅広いのです。引き出しの取っ手には入っているボタンの見本。遠目に見ると現代アートと言っても良いのではないでしょうか。見ているだけで楽しくなるのですよ。しかも店員さんが在庫を記憶しておりまして持ち込んだボタンを見せると瞬時に同じものを探し出していただけます。特殊スキルをお持ちのようですね。
他にも色々と買いまわります。ここは隠れた名店が多いのです。たい焼きもお勧めですよ。今日も最後に立ち寄ってお持ち帰りに致しましょう。たい焼き屋さんへと向かっておりますと歌声が聴こえてまいりました。私の好きな楽曲ですよ。行ってみましょう。
§
歌声はイベントスペースから聴こえておりました。イベントスペースとは名ばかりでおそらく空き店舗をそのまま開放したのでしょう。椅子などを並べただけの休憩スペースでございます。丸いテーブルセットが5つ、全部で20脚ほどの席数です。
一番奥には二畳ほどのステージが即席で作られております。床から20cmほど高くしただけのステージです。後ろの壁には装飾として手書きのポスターが貼られております。
ステージ上の椅子にギターを抱えた女性がひとり。スピーカーもマイクもありません。それでもビブラートの効いた歌声が響きます。せっかくの機会です。聴かせていただきましょう。
近寄ってみるとひとりだけ観客がいらっしゃいました。
白く光るペンライトを両手に持って左右に振っています。不思議な空間です。私たちが立ち入っても良いのでしょうか。
良く見ると先週お見かけしたペンライト少女さんではありませんか。
曲が終わると盛大に拍手。私たちも心から拍手をさせていただきます。とても良い歌声でございました。
私たちの拍手に振り返るペンライト少女さん
「あっ 先週も会いましたね」
私の事を覚えていたのですか。よくわかりましたね。
「その長い黒髪は目立ちますよ。お姉さんたちもアイドル好きですか。一緒に応援しませんか」
思ったよりも目立っていたようでございます。何かの縁でしょう。ご一緒させていただきます。
「ありがとうございます。一曲だけでも聴いて行ってください。よろしくお願いいたします」
わざわざステージを降りて椅子を並べてくれるギター少女さん 手作り感満載のライブでございます。これは応援したくなりますね。
「これを使ってください」
ペンライト少女さんが腰に付けたポーチから出したのは二本の白いサイリューム。ぽきっと折れば光るスティックですね。頂いてもよろしいのですか。
「布教用に持ち歩いているんですよ。一緒に応援すると楽しいでしょ。彼女のカラーは白ですからね」
ポーチを見せていただくと数本のサイリュームとペンライトの予備乾電池が見えました。万全の装備でございますね。
ありがたく布教を受けさせていただきます。
ステージに戻るギター少女さん。そしてペンライト少女さんを挟むように右に私、左に爆乳姫子さん(仮名)
それから再開されたステージはリクエストも含めて全10曲
ポップな楽曲ではペンライト少女さんが見事なオタ芸を披露。そのような芸を持ち合わせていない私たちは楽曲に合わせてぴょんぴょんしておりました。楽曲を聴くだけでなく身体を動かすと一体感が高まります。しかもアーティストの目の前です。滅多にない贅沢なライブでございます。
§
「十七歳の高校生です」
ギター少女さん 現役高校生でございました。しかも同い年ですよ。こちらもじゅうななさいの原液女子高生でございます。
・・・困惑した目で見ないでくださいませ。
今はまだ趣味の領域ですが、きちんとボイストレーニングなどに励みつつライブ活動を行っているようでございます。夢はCDデビューだと熱く語っていただきました。将来結婚したときに「お母さんはね。昔アイドルだったのよ」と子供に聞かせたいそうです。
「聴いてくれる人がひとりでもいれば嬉しいんです。こうやってステージを作ってもらっても誰もいないことが多いんですよ。今日は三人も聴いてくれました。しかも全力応援付きですよ。私、幸せです」
なんだか才能がもったいないですね。よろしければ地元商店街のステージをご紹介いたしますよ。それに病院でのロビーコンサートに興味はありませんか。
「ロビーコンサートが何かは良くわかりませんが、歌える場所があればどこでも行きますよ。ぜひお願いします」
良い出会いになりました。きっと皆さんに喜んでいただけますよ。
連絡先を交換して再会を約束したギター少女さんはショッピングセンターの事務所へお礼の挨拶に向かわれました。
§
残ったのは私たち三人。ペンライト少女さんはいつも応援に来るのですか。
「頑張っている地元アイドルを応援するのが大好きなんです。私では手の届かない所へ駆けあがっていく人を応援しているんですよ」
素敵な趣味でございますね。何かきっかけがあったのですか
「実は私、引きこもりだったんです。唯一外に出るのは人の少ない河川敷の公園でした。そこで練習しているアイドルさんに出会ったんです。私と同じジャージ姿だったのにキラキラしてたんです。何度か通っているうちに仲良くなって、私の為に曲を作ってくれたんですよ。背中を押す曲を私だけの為に振り付けまでして歌ってくれたんです。その日から少しずつですけど前向きになって、一か月後には学校に行けるようになったんですよ。だから今はアイドルさんたちに恩返しです。私が全力で『推す』番ですからね」
だから地元アイドルさんを推しているのですね。その河川敷アイドルさんは今も仲良しですか
「有名になっちゃって河川敷には来てくれなくなりました。でも近くでコンサートするときにはいつもチケットを送ってくれます。今日も大切に持っていますよ。これが来月のコンサートチケットです」
自慢気に見せてくれたコンサートチケット。 えっ この方が河川敷で練習していたのですか。私でも存じあげておりますよ。しかもこれチケットではなくてスタッフパスではないですか。関係者扱いですよ。
「私が『推す』と有名になるんですよ。応援するのは得意なんです。お姉さんたちも一緒に応援しましょうよ。応援の素質あると思います」
応援の素質ですか。初めて聞きましたよ。
「お姉さんたちは何か楽器やってますよね。初めて聴く曲にあれだけ合わせられるのは珍しいですよ。それに三人だけなのに照れないで応援してくれたじゃないですか。あれは才能ですよ」
楽器は少々嗜んではおりますが、合わせると言ってもぴょんぴょんしていただけですよ。それに照れがないのは他でもっと恥ずかしいことしているからです。(きりっ)
「ぴょんぴょんがすごかったんですよ。ぴょんぴょんするだけで色々持っていかれます」
隣でばるんばるんしていましたからね。私はしませんけど
「揺れる黒髪もきれいでしたよ」
お褒めいただきありがとうございます。流石褒める達人でございます。でもこの話題はここまでにしましょう。なぜか悲しくなってまいりました。
「ところでもっと恥ずかしいことって何をしているのですか。もしかしてアイドルさんですか。応援しに行きますよ」
えっと色々と深い事情がございまして、その件は禁則事項となっております。ご了承くださいませ。
姫子さん 肩で笑わないでくださいよ。
§
時間を確認したペンライト少女さん。慌てて行ってしまわれました。今日はもう1ステージ『推し』が待っているそうでございます。あなたのペンライトが夢を追うアイドルさんを推すのですね。ペンライト少女さん 私はあなたを推しますよ。
夢を追い輝くアイドルさん
そして輝かせようと推すスタッフさんやファンの方々 みなさん眩しいほどに輝いております。
私も一員になれるでしょうか。ぴょんぴょん応援なら出来ますからね。
さて私たちも帰りましょう。私の妹 私のアイドルがたい焼きを楽しみに待っています。
じゅうななさいはペンライト少女を推すのです。 音無 雪 @kumadoor
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