第4話

 ジュリが学校を終えて玄関の前に立つと、チロが現れる。そんな日々が始まった。


「石がゴロゴロしてるとこを知ってるの!」


 そう言ってその日向かったのは近所の月極駐車場だった。砂利敷きになっているから、辺り一面石だらけだ。


「どんな宝石が出せるの?」


「なんでも出せるよ」


「ルビーとか、サファイアとか?」


 ジュリが知っている宝石の名前を言うと、チロは赤や青の宝石を出してくれた。きんと違って透き通っていて、太陽にかざすとうっとりするくらい綺麗に輝いた。


「すごい、すごい! えっと、宝石って他に何があったっけ……そうだ、ダイヤモンド――」


 でもその時、「おねえちゃん」と呼びかけられて、魔法は中断されてしまった。

 顔を上げると、犬の散歩をしているおばさんが、ジュリとチロの方を見ている。


「駐車場で遊んだら危ないよ。余所の車の近くで遊ぶのもダメ。公園とかに行きなさい」


 そう言っておばさんは立ち止まったまま、ずっと見てきた。二人が場所を移動するのを待っているのだ。

 だから、二人は「はぁい」と返事をして、その場を立ち去るしかなかった。


 とりあえず昨日の公園に移動して、ハアッと息をつく。


「駐車場はダメだったか。しょうがない。どこで石を拾うかはまた考えることにして、今日はこのまま公園で遊ぼう!」


「……公園で遊ぶ?」


 聞き返したチロを置いて、ジュリはもうブランコに向かって駆け出していた。ひとつだけ空いていたブランコに飛び乗り、立ったまま「早くー!」と手招きする。

 呼び寄せられたチロは、訳のわからないまま同じブランコに座った。それを確認して、ジュリが力一杯立ちこぎを始める。


「チロもこいでよー! 二人でこぐと、スピードが二倍になるんだよ!」


 言われるままに、チロもブランコをこぎ出した。最初は不安定に揺れて危なっかしかったけど、段々息が合ってきて、二人は一緒になってびゅんびゅん風を切った。


 ジュリが弾けるように笑った。


「ィヤッホー! たーのしーい!」


 それを聞いたチロもプッとふき出して、けらけら声をあげて笑った。

 二人はキャーキャー言いながら、夢中でブランコをこいだ。




 次の日、二人が向かったのは神社だった。


「ほら、石がたくさんあるでしょ?」


 得意気に言ったジュリだったが、視線を何度も拝殿の方にやっていて、落ち着きがない。


「なるべく神様にバレなさそうなところでやろう」


 そう言ってできるだけ端の、木の影に屈み込むと、二人は石を見繕い始めた。

 でも、ジュリは石を拾っては投げ捨てるばかりだ。


「神社の石って大きいなあ。これじゃ飲み込めないね」


「そんなことないよ」


 チロは足元にあった石を適当につかむと、あっという間にそれを丸飲みにしてしまった。そして宝石に変えて吐き出すと、「ほらね」とジュリに投げて寄越した。


「すごい。大道芸みたい!」


 ジュリの目は、受け取った宝石よりもチロに釘付けだった。チロはなんでもなさそうに笑っている。それを見て、無理したわけじゃないんだなと安心して、ジュリもふふっと笑った。

 そして手の平にのる大ぶりな宝石を見下ろして、「やっぱやめた!」と突然立ち上がった。


「神社の石はバチが当たりそう。この宝石をお供えして許してもらおう」


 チロも立ち上がって頷いた。


「ジュリがそうしたいならそうすれば良いよ」


「これお賽銭箱に入るかな? また次の場所は考えとくからさ、今日はまた公園で遊ぼうよ!」


 二人は頷き合って、笑顔で駆け出した。

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