第2話

 帰りの東京駅はがやがやと、行き交う人たちで混雑している。


 「それじゃあ、またね」


 愛茉ちゃんは機嫌良く去って行った。ゆる巻きのブラウンの髪が軽やかに揺れるその後ろ姿を、最後まできっちりと見送ってから、私はスマホを確認する。

 時刻は18時40分を過ぎたところ。次の約束まで、あと20分しかない。


 巨大な駅構内に満ちる人波を、何とかして逆らって、改札とは反対の方向に進む。


 せめて、メイクは直さなきゃ。


 私は駅から出ると、近くのデパート内にあるパウダールームへ足早に急いだ。


 待ち合わせの駅前広場に着いたのは、19時ちょうど。広場内を見回して、すぐに彼を見つける。新緑の柔らかな葉が瑞々しいけやきの下で、眠たげに佇む背の高い彼は、私に気がつくと軽く頷いた。


 二人で、肩が触れる程近くに並んで、歩き出す。


 私に触れる彼の左手、その薬指にあるイエローゴールドのリングは、ついさっき同じものを見たばかりだ。愛茉ちゃんとお揃いの綺麗なリング。


 でも、デートは浮気じゃないらしいし。


 「ねえ、今日はどこに行く?」


 私は塗りたての、オレンジブラウンの唇で囁く。以前に彼が好きだと言った、愛茉ちゃんなら選びそうにないビターな色のリップだ。


 絶対に知られないように、気をつけるね。愛茉ちゃん。


 指を絡めて手をつないでも、彼は全く抵抗しない。わたしはうっとりと微笑わらった。


 



 


 


 


 

 


 


 

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あの子は知らない 渦島怜 @Fauna_f

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