第10話 また会いましょう。

「じゃあ、猫田さんの自信の根拠ってのは何です?

みんな価値がある、なんてキレイゴトの根拠は?」


私はちょっとキレていた。


みんな違っていい、と言いながら集団からはみ出た生徒を怒鳴りつける。


そんな教師の二枚舌指導は昔から嫌いだったもんで。


「僕が、みんな価値があると思えるようになったきっかけは―」


論破してやる、と息巻きながら聞いていた私は、


「ビックバンを知ったからです。」

無事にスペースキャットよろしく宇宙を背負うことになった。


「ビックバンって?宇宙ができた仕組み的なやつですか?」

相談者も困惑している。


「それです。それってつまり、

ビックバンが起こる前は全宇宙の物質がひとつだったってことじゃないですか。」

混乱状態の私たちを置き去りにした、猫田さんは止まらない。


「僕らは過言でもなんでもなく、宇宙の一部で、僕らの存在なしでは宇宙は成り立たないんですよ?」

凄くないですか?と無邪気に目を輝かせている。


ごめんけど、自信のスケールがでかすぎて共感できない!


「「そ、壮大ですね。」」

私たちはそう言うのが精一杯だ。


「自信の根拠なんてどうでもいいんですよ。

顔が可愛いでも、お金持ちでも、耳がとがってるでも。」


相談者はその言葉に、自身のややとがった耳を触りながら、

「そんな変な理由でいいんですか?」

と呆れ顔になった。


「僕からしたら、たかが数ミリのパーツの違いや、食べれもしない紙幣紙切れの量の差が、真っ当な自信の根拠になるのも十分奇妙ですけどね。」

負けじと猫田さんもドン引きした顔をしている。


「ぷっ、あはは!確かに!」


憑き物が取れたように、清々しい顔をくしゃくしゃにして笑う相談者は

少なくとも私の目には今日一番魅力的に映った。


*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。


”お気持ちです”と貰った封筒を持って、私たちは来た道を引き返していた。


「…川合さん。」


猫田さんの硬い声に、思わず振り返ってしまう。


「どうかしました?」

つられて私まで身がこわばる。


「この封筒のお金で猫缶買ってきてください。」

いつもなら”なんで私が?”くらいの軽口を叩くだろうに、猫田さんの並々ならぬ様子に、つい封筒を受け取ってしまった。


「川合さん、。」

言うが早いか、さっさと歩いていってしまう。


”また”ってことは公園に戻るのか?

私は嫌な胸騒ぎに、おつかいを済ませた後走って公園に向かう。


「猫田さん…?」



―猫田さんはいなかった。


「にゃーん」

「っ!?」


わななきながら目線を下げると、


「ネコ太っ!?」


猫田さんに出会った日から一回も会えてなかったのに。


やっぱ猫田さんはネコ太?

いやいや、ファンタジーじゃあるまいし。


じゃあ、何でこのタイミングで?

”またね”ってそういう意味…?


取り留めのない思考はとどまるところを知らず、キャパオーバーだ。



正直、今はバイト面接なんてできるメンタルじゃない。

ここまでどうやって来たのかも覚えていないが、私は例の保護猫カフェのドアの前にいた。


むしろ、ちゃんとたどり着いただけ褒めてくれ。

半ばやけくそ気味にドアを引く。


「すみません、今日のバイトの面接ですが―


その先は言葉にならなかった。


なぜなら、

そこにいたのは、


「お待ちしてました!」

エプロン姿の猫田さんだったから。


驚きました?といたずらに笑う彼に、



「痛っ!?」


とりあえず、全力のデコピンをお見舞いしてやる。



「どういうことです?”また”って言ったのに公園にいなかったじゃないですか!」


ネコに囲まれながら、怒られる青年と仁王立ちの女の子。

傍から見れば滑稽こっけい極まりないが、私は真剣に怒ってんの!


「またここで会うので、つい”またね”と言ってしまって。」


"さぷらいず"がばれなくて良かったです!とニコニコしてるので、

もう一度私のデコピンが火を噴いた。


…どうやら、猫田さんの本職とやらは保護猫カフェのオーナーで

さっきの会話から今日の面接者は私だと確信してたのに

”さぷらいず”したくて黙ってた、と。


やけに挙動不審だったのは、そういうことだったのか。


吐かせ…話させ終えた猫田さんが急にチラチラこちらの顔を伺い、


「実は川合さんに、”見せたいもの”がありまして…」


と切り出した。


…もうサプライズはお腹いっぱいなんだけど。


できる限り胡乱うろんげな顔をしたが、

母の日のプレゼントを早くあげたくてソワソワする幼児みたいな様子の猫田さんに、


「エー、ナンダロウ、キニナルナァ…」


つい、返事をしてしまった。

くそぅ、なんか負けた気分。


謎の敗北感を感じつつ、

こっちです!と上機嫌な猫田さんについていく。


保護ネコちゃんとのふれあいスペースを抜け、見えたのは、


「ねこた相談所…?」


ドアに猫の形のプレートがかけられている部屋だった。


…私がもっと相談者第一に考えろと言ったからだろうか。


猫田さんは、母の似顔絵をプレゼントした幼児の如く、

”どう?どう?”と目線で訴えてくる。


…猫田さんは私が産んだかもしれない。

母性がカンストし、存在しない記憶が蘇ってきた。


「…びっくりしました。猫田さんが私のアドバイスを真剣に聞いてくれるなんて!」


隙あれば相談者の地雷に突っ込んでいく、暴れ馬ならぬ、暴れ猫の猫田さんが

ちゃんと人の意見に耳を傾けられるなんて…!

と感動した。


猫田さんの成長に感慨深さと、わずかな達成感を―


「はい?最近の夏は暑いし、秋になったら外でないので、ここで相談乗ることにしました。」


僕、暑いのはまだしも寒いの嫌いなんです、と顔をしかめている。



前言撤回。

猫田さんが人の都合など考えてるわけなかった。


「…ん?去年まではどうしてたんです?」

至極当然の疑問を呈す。


「寒くなったら受付終了でした。」


…コレが人気カウンセラーなんて世も末だ。


「どこまで自分勝手なんですか!てか、なんでここ使わ―」

人が喋ってるというのに、猫田さんが“相談室”のドアを開ける。


そこには、


「汚ったな!」


乱雑に形成された本のタワーは崩壊寸前だし、テキトーに物が詰められた段ボール箱が離島群りとうぐんの如くあちこちに散乱している。


「人手が増えたので、ようやく相談室が片付きそうです!」

猫田さんはニッコニコだ。

今までの言動は片付け要員が増えて喜んでただけか!

無駄に溢れた母性を返して欲しい。


なぜ公園でカウンセリングをしていたのか、思わぬ形のアンサーに呆れ顔を作るが

私の口角は僅かに上がってしまっていた。


自由人に振り回されるのも悪くない。なんて

…本当に末なのは世の中じゃなく私の方かもしれない。


そんな気持ちをかき消すように、

「相談室を物置にするカウンセラーがどこにいるんですか!?」

精一杯の声量で嚙みつくのだった。



「…猫缶あげなかったんですか?」

片付けの手を止めずに猫田さんは話を降ってきた。


コイツ私が猫缶片手に面接に来たのを面白がってんのか?


「無責任な餌やりはダメなんですよ。」

できるだけ素っ気なく返す。


野良猫たちには地域のボランティア団体が餌やりをしているので、素人の餌やりは御法度だ。


「ネコ太と会えたなら良かったです。」

「…?」



会話は終わったとばかりに、猫田さんは立ち去ってしまう。


…私、猫田さんにネコ太に会ったこと言ったっけ?


全ては偶然か?それとも―?

謎多き猫田さんのアシスタント生活は、まだ始まったばかりである。



















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ねこたさんのお悩み相談所。 真中 こころ @manaka_kokoro

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