紬と糺【side Tadasu】

金星タヌキ

第1話 三岡神社



 ――パンッ

 


 平手で頬を張る乾いた音が部屋に響いた。

 

 ……終わった。

 

 女に手を上げた時点で 男としても 人としても。

 例え 自分のプライドを守るためでも。

 許されへんことは 許されへん。

 

 相手は 自分の恋人。

 いや 恋人だったと言うべきか。

 この恋も 終わった。

 恋自体は ずいぶん前に終わってた気もするけど。


 そして 相手は 専務の娘。

 会社での出世も終わった。

 いや 恋人のツテでの就職やったワケやし クビ自体 危ないのかもしれへんな……。



 ☆☆☆



 転職サイトのリプを確認して 溜息。

 東京近辺やと 狭い業界やし また 今の同僚と顔を合わせることになる。

 で 関西圏に帰るとアイツがいる。

 それに 今更 実家の世話になるのも ちょっとな……。

 いっそ他業種で 違う地方へ 行ったりする方が ええのかも。

 

 ふと 広告のバナーが目に留まる。

 

『――本物の魔法に逢える街――ようこそ 星光市へ』


 ……N県 星光市か。

 行ったこと無い街やし なんか有名なお城とか神社もあったような気もすんな。

 

 7月下旬あたりで 旅行にでも行こか……。

 職場にいても 針の筵。

 有給取って 気晴らしでもせんと 息が詰まって死にそうや。


 ホテルの予約サイトにアクセスする……。



 ☆☆☆



 東京から特急で2時間半。

 光岡中央で乗り換えて 光岡城の大手門前。


 

「……はぁ」



 また 溜息吐いてしまった。

 今ので最後にしよ。

 東京帰るまでは 暗いこと考えるの止めよ。


 せっかくの旅。

 旅の間くらいは 楽しいこと考える。

 せっかくの久々のフリー。

 ええ女でもナンパすんねん。


 オレも まだ 25。

 見た目も そこまでるないハズ。

 ナンパでもして ワンナイトかまして オマンコしてスッキリしたい。

  

 職は失くしそうやし 人としては最低やねんから いっそ 開き直って そんな刹那的な快楽に身を委ねるのも悪くない……。


 欲求不満の人妻とか 傷心旅行の女子大生とか 一人旅してたら ええのにな~。

 そんな自分にだけ都合のええこと考えながら 大手門をくぐり 本丸を目指す。

 ガイドブックによれば 本丸横に 古い神社があるらしい。

 なんでも 縁結びの神様やとか。

 仕事の縁 女の縁。

 なんにせよ良縁に恵まれたい。

 天守台 見た後 足伸ばすのも ええかもしれん……。


 

 ☆☆☆



 蝉の声の鳴り響く 林の中の石段を上がりきる。

 さして広くない境内。

 正面に端正な社殿が見える。

 スマホを構え 写真を撮る。

 光岡城内の三岡神社。


 本殿横の解説によるとお城より前から建ってるらしい……。

 あと ご利益は やっぱり縁結び。

 

 SNSに さっき撮った社殿の写真と一緒に

 

 糺>星光市の三岡神社に来ました。

 糺>古式ゆかしい式内社だそうです

 

 って 上げておく。


 趣味垢。

 神社巡りとか 食べ歩きとか。 

 まぁ 一応 お祈りもしとこかな。


 賽銭箱の前に立つと 先客がいた。

 白い服を着た若い女。

 賽銭を入れ 柏手を打つ。


 女は 少し頭を垂れ手を合わせた姿勢で 熱心にお祈りをしている。

 白いうなじが眩しく光る。

 年の頃は 20代前半やろか。

 少し長めの髪を後ろでお団子にして纏めている。

 艶やかな黒髪が美しい。

 顔は本殿の方を向いてる上にスポーツタイプのサングラスをしてて分かり難いが 美人っぽい。

 まぁ オレもグラサンしてるけど。


 そして なんと言っても ノースリーブの白いニットに包まれた巨乳。

 賽銭 投げて 柏手を打った後 お祈りするふりしながら横目で確認するけど ホンマにデカい。

 Eカップ? もしかしたらFカップぐらいあるかもしれん 細身に たわわなオッパイのエロい女。


『神様 どうか こんなエロい女とご縁があって したい放題 中出しSEXできますように……』


 そんな無責任なお願いをして オレは本殿の前を後にする。

 このあとは 神社を東に抜け 聖心館っていう女子大の前まで城山を下り そこからバスに乗る。

 次の目的地は 広照院ってゆー禅寺。


 と 社務所の前の御神籤おみくじに目が止まる。

 一回 200円。

 せっかくやし 引いとこかな。


 ガラガラと振って ポンと出す……七十三番。


 授札所の巫女さんに番号を告げる。

 小学生みたいな巫女さんが籤を渡してくれる。

 夏休みやし 家の手伝いでも してんのか?



「男の方の七十三番 吉ですね」



 ……吉か。

 どれどれ……っと。

『松が枝に来たる鳥あり 雪落つる』

 

 願望:全て叶う

  マジか? めちゃくちゃ ええやん。これで吉なんか?

 待人:意外なところで会う。

 恋愛:自ら動け。待つ人あり。

 走人:あり。よろし。

  確かに……別れて良かったとは 思う。

 縁談:縁無し。諦めよ。

  なんやコレ?あんまりやな……。

 商売:わろし。目先を変えよ。

  転職が わろしか? 目先変えて転職しろってことか? どっちやろ?

 失物:出る。

 転居:よし。夫婦で住め。

  縁談無いんちゃうんかいっ。ツッコむわ。

 旅立:波あれど好日。伸ばすもよし。

 健康:回復早し。よく立つ。


 願望 全て叶うとか 初めて見たな。

 さっきの女とマジで ヤれるんやろか?

 恋愛も自ら動けやし 今度見かけたら ホンマにナンパしてみよかな……。

 結婚 縁なしってゆーのも ワンナイトやと思えば ええお告げかも。

 旅立も 良かったし 幸先ええと思お。

 

 まぁ ええ籤やし しばらくは財布に入れとこかな。

 オレは 籤を丁重にたたむと札入れの カード入れの裏に大事に仕舞い 東向きに下る石段へと 歩きはじめる。


 さっきSNSに上げたポストにFFさんからの反応がポツポツ返ってきてる。


 WAO>三岡神社 10年くらい前 行った(* ̄ー ̄)

 ひのめ>糺さんの写真 いつも綺麗です。

 ハセポン>星光観光 いいですね。楽しんで下さい。

 

 【糺】っていうのはオレのハンドルネーム。

 実家の近所の神社の森が元ネタ……まぁ 神社巡り垢やしな。

 家族やリア友 同僚は もちろん 元カノにも教えてない 完全な趣味垢。

 フォローもフォロワーも200人程度の ささやかなアカウント。

 それでも それなりに交流のあるFFさんもいたりする。

 オレの小さな癒しの場。

 

 SNSで承認欲求でも 満たしてもらわんと ホンマに病みそうや。

 今回の旅も ちょくちょく上げて行こかなって思ってる。

 軽くコメント返ししながら オレはバス停へと向かった。

 


 ☆☆☆☆☆


 この作品は単体で読んでいただいても

 並行作品の【side Tsumugi】と交互に読んでいただいても

 楽しめる作品になっています。



 『紬と糺』【side Tsumugi】第2話〈初恋の人〉へ

https://kakuyomu.jp/works/16818622170939079004/episodes/16818622170940634700

  

 

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