シミュレーションの成績以外ポンコツな俺が、なぜかAI少女だけの無人戦闘機隊を率いる事になりました

新井 穂世

序章

序章 人類最強のAI戦闘機隊

 警報が鳴り響く指揮所は慌ただしく状況を確認している。

 指揮官である俺――アマギ・ショウマも足早に指揮所に入って椅子に座る。


「状況は?」

「敵の艦隊が接近。巡洋艦1、護衛駆逐艦2。上空13000メートルを移動中」

「ありがとうエリカ。随分小規模だな……」


 オペレーターのキヌガワ・エリカがすぐに報告する。今回は小規模な敵襲らしい。


「恐らく威力偵察目的だろう。下手に刺激しない方が得策とも考えられるが?」


 そう言いながら俺の副官――オーベル・レティアさんは画面を見て考察する。しかし俺は敵の意図をなんとなく察することができた。


「それは無いな。きっと艦隊移動の為のルートを探してるんだろう」


 俺の推測にオーベルさんは訝しげに俺を見た。この人は俺より年上だし、階級も実質上だが俺の副官に甘んじてくれている。でも、こういう時の分析は俺の方が得意だ。


「どうしてそう判断する?」

「威力偵察ならドローンを飛ばせば良い。小規模でも艦隊を出すのは合理的じゃ無い。地球上にある軌道迎撃砲を回避する安全ルートの探索をしていると考えた方が納得できる」

「なるほど。相変わらずの分析力だな」


 オーベルさんが感心した様子でうなずく。こういった戦術はシミュレーションでも何度か試したことがある。敵がそのルートの安全性を見極めるために、あえて犠牲を前提に艦を通す。圧倒的物量があるなら多少の損害など取るに足らない。それが奴らのやり方だ。


「このまま通すと移動ルートを作られる。殲滅してここは危険だと知らせてやろう」

「了解だ。第1戦闘配置! ヤタガラス隊出撃準備!!」


 俺が攻撃の判断を示すと、オーベルさんはすぐに号令を出してくれる。俺がコンソールから指揮システムを起動させると、ホログラムディスプレイが目の前に現れた。そこに示されているのは6機の戦闘機の機体情報だ。


「今回は殲滅戦だ。敵は3隻で航空戦力は巡洋艦搭載の大型ドローン40機。艦隊ごと叩くぞ」


 俺が音声指揮システムで通信を飛ばすと、直後に返事が返ってきた。


『了解です指揮官。出撃準備に入ります』

『対艦ミサイルの在庫は足りる?』

『ドローンは引き受けた。任せてくれ』

『敵が少ないのはちょっと退屈かもね』

『ならジャミングポッドの搭載を提案するわ』

『作戦確認。完璧に仕上げてみせるわよ』


 6人の可愛い少女たちの声が響き渡る。いつも通りの彼女たちだ。通信画面には彼女たちの姿は映らないが、戦闘前なのに緊張を感じていないのは分かる。


「ライカとフウカが先行だ。イナリは後方で電子支援。タケミは制空権確保に合わせて対艦攻撃。カエデはヤヨイを援護して対艦ミサイルの攻撃を確実に通せ。どう動くかは各自の判断に委ねる」


 俺は大まかな作戦を伝える。彼女たちに与える指示は具体的にはしない。その方が彼女たちは戦いやすいのを理解しているからだ。


『了解した。フウカ、先走るなよ』

『えー、ライカが遅すぎるんだよ!』

『お前が勝手に動き過ぎるんだろうが!』


 何やら微笑ましいやり取りが聞こえてくる。これだけ聞けばただの姉妹喧嘩だ。そやり取りの間にも、窓から見える滑走路に戦闘機がタキシングしてくるのが見える。最初に位置に付いたのはライカとフウカの機体だ。ライカは近接用のガンポッド、フウカは妨害用のチャフ散布ミサイルを積んでいる。

 発進準備ができたのを確認して俺は命令する。


「ヤタガラス隊出撃だ。ライカ、フウカ。制空戦闘は任せたぞ」


『了解。カムイ、離陸する』

『ハヤテ、離陸するよー』


 そんな声と共に2機の戦闘機が離陸していく。続けて別の2機が滑走路に入る。これはイナリとヤヨイだ。イナリの機体は妨害用のジャミングポッドを吊り下げて、ヤヨイの機体は6発の対艦ミサイルを積んでいる。


「イナリ、ヤヨイ。現場のタイミングは一任する。必要な時は俺が決める」


 俺は離陸前の2人に指示を出す。現場はこの2人に任せるのがセオリーだからだ。


『了解。クシナダ、離陸するわ』

『任されたわ。ホムラ、離陸開始』


 2人が離陸していく。簡単な返事だが2人は俺を信用しているかのように感じた。

 それから最後の2機が入ってくる。カエデとタケミの機体で、カエデが支援用にミサイルを最大まで積んでいるのに対し、タケミの機体はミサイルは少なめで大型のガンポッドを吊り下げている。


「攻撃のタイミングは各自で判断していい。キツい一発を喰らわせてやってくれ」


 俺は最後に離陸する機体に冗談めかして言う。


『分かりました、全力で行きます。シラヌイ、離陸開始!』

『ま、せいぜい指揮官らしく頑張ることね。ツルギ、離陸する』


 2人はそう言って空へ上がっていった。それぞれのコールサインである「シラヌイ」、「ホムラ」、「カムイ」、「ハヤテ」、「クシナダ」、「ツルギ」の文字とアイコンがスクリーンに現れる。しかし、俺は指揮の時にこのコールサインを使わない。彼女たちの名前で指揮を執る。それが俺と、彼女たち――ヤタガラス隊で決めたルールだ。


 俺は画面に映る彼女たちのコールサインを見ながらふと思う。


(戦場に少女たちを駆り出すのは、果たして正しいのか?)


 だが、その思いは詭弁だ。

 あの6機の戦闘機に人間は乗っていない。乗っているのは、彼女たちの人格で構成された「AI」なのだから。



  ●



『――敵の殲滅を確認した。ヤタガラス隊、帰投せよ』


 通信越しに聞こえる指揮官の声を聞いて、今日も任務を終えられた事で私は軽く息をつく――いや、「息をつく」というのは正しくないかもしれない。私たちは呼吸をしない。それをする身体は存在しない。あるのはデータと、電子化された思考だけ。でも、何となく「緊張が解けた」といえるような気持ちを感じる。


「了解、隊帰投します。シラヌイ、アウト」


 指揮官にそう返事をして私――カエデは機種を基地に向けて帰還航路を取る。私の後ろからは5機の仲間たちが続いてきて、自然と編隊飛行になっていく。



『今回は楽勝だったねー』

『バカ言うな。お前途中でミサイル切らしてただろ?』

『えーでもちゃんと仕事したから良いじゃん?』


 ライカとフウカがまた言い合っている。でも、この2人だから上手くやれていると私は思う。


『ヤヨイ、マウントロックの調子は?』

『やっぱりダメね……こうも不調続きは困るわ』

『私も途中で弾詰まりしたわ! ホント最近は整備が悪いわね』


 イナリとヤヨイ、そしてタケミたちの会話を聞いて私は不安を覚える。ヤヨイの対艦ミサイルが故障で切り離せなかった所為で、作戦は成功したけど苦戦したのは確かだった。最近は補給も滞りがちで機体の不調も増えている。私の機体は比較的整備が良好だけど、それもいつまで続くか分からない。戦場では絶対は無い。だからこそ、不安は消えない。


 それから私たちは時々会話しながら基地に帰還する。順番に着陸し、ハンガーに機体を入れたら私たちの任務は終了となる。

 格納庫に入れた機体にロックが掛かる音が響いて格納完了の表示が出る。その直後に私の視界は暗転して、次に目を開けると――そこはもう私が過ごしている部屋になっていた。一瞬で殺伐とした戦場は見慣れた日常の景色へと変わる。ふと視線を逸らすと、出撃の直前まで読んでいた本が机に置かれている。庭からは風鈴の音色と、川のせせらぎが聞こえていた。

 私は自分の姿を確認する。お気に入りの白と薄紅のワンピースに桜色の髪、そしてお気に入りの髪飾り。いつものアバター姿だった。

 ここが私たちが過ごす場所――「タカマガハラ」

 それが私たちの帰る場所の名前だった。ここは私たち「イザナミAI」が待機するための特別なサーバーで、私たちの故郷とも言える場所だ。少なくとも、私たちはそう思っている。


「あ、早く行かないと……!」


 私は慌てて部屋を出る。戦闘の後はカフェで反省会をするのが私たちの習慣なのだ。急いでカフェに到着すると、皆はもう集まっていた。


「遅いよカエデ。またぼーっとしてた?」


 ヤヨイがからかうように言ってくる。彼女は焦げ茶色の髪を持った動きやすいラフなスタイルのアバターでお茶を飲んでいる。


「ごめん、ちょっと演算処理が遅れたみたいで……」


 私が席に着くと、テーブルには瞬時に紅茶入りのティーカップが生成される。本物じゃないけど、擬似的に味を感じる事ができる。


「AIが人間みたいにぼーっとしてて大丈夫? ひょっとしてメモリログが壊れてない?」


 そんな事を言うのはタケミだった。彼女の銀灰色の髪が光を受けて輝いてるのが綺麗だった。


「そんな事言ったらカエデに失礼よ。私たちは普通に作られたAIじゃないんだから、そういう事もあるでしょう?」


 そう言ってタケミを注意しているのはイナリだ。彼女はバイオレットの髪が靡く落ち着いた雰囲気のアバターを使っている。


「そうそう。じゃないとライカなんてAIとして失格だよ。慎重すぎてとてもらしくないし」

「おい、今のは聞き捨てならんぞ。なら論理的な動きができないお前は欠陥AIだ」


 ダークブルーの髪で落ち着いたスタイルのライカと、シルバーブロンドの髪でラフなスタイルのフウカはいつも通り喧嘩をしている。これが私たちの戦闘以外での姿だった。

 でも、指揮官には私たちの姿を見せたことは無い。私たちは極秘開発されたAIだから、指揮官であっても無闇に情報を開示できない。でも、今以上の関係になったら私たちはどう考えるだろうか。


「今日の指揮官はダメね。弾詰まりを報告した後の対応が良くないわ」


 タケミが最初に切り出して反省会が始まった。指揮官が着任してから、反省会は主に指揮官の采配を評価するのがメインになっている。


「私は指揮官よりも整備面が気になるわね。マウントロックの故障、今月でもう4回目よ?」

「でもその中で考えられる対策を指揮官は提案できた。これは評価できるんじゃないかしら?」


 ヤヨイとイナリも会話に加わっていく。皆はそれぞれ思う事を口にしている。


「しかし最近は敵も手強い。すぐにパターンを覚えられる」

「そうそう。今日は何回パターン変えたっけ?」


 ライカとフウカの会話は私も懸念していた。敵は私たちと同じAI制御だ。動きは単調で、私たちの柔軟さに比べたらまだ思考は固い。でも最近は私たちの動きにも早く適応できている。


「この先私たちだけで大丈夫かな……」


 私はつい不安を口にしてしまう。それを聞いた他の皆が私に注目した。


「まあ、私たちはやれることをやるしかないさ」

「その通り! 私たちが頑張らないと人間が滅んじゃうし」


 ライカとフウカの言葉は正しい。でも、どこかにそれに納得できない気持ちがある。


「私たちはAIだけど、こうして考えられる個性がある。その個性があれば、戦闘で新しい選択肢を持てるわ」

「そうね。私たちはその為に作られた……敵を超えるためのAIよ」


 イナリとヤヨイの言葉も理解できる。私たちイザナミAIはその為に開発されたのだから。


「なーに弱気になってるのよ。私たちが敵の頭の固いAIに負けるわけ無いでしょ!」


 タケミの自信に溢れた言葉は、今の私には少し眩しく感じる。でもその言葉に勇気づけられてるのも事実だ。


「そうね。私たちが頑張らないと……指揮官の為に。そして人類の為に」


 私の決意を聞くと、皆も無言で頷いてくれた。私たちはAIだから命の危険はない。けれど――もし、私たちが「壊れたら」指揮官は何を思うのだろう?

 そんなことを考えてしまう自分が少しおかしく見えてしまう。AIなのに人間くさい。これでは笑われても仕方ない。


 私たちの任務は続く。戦うことに疑問を持つ暇は無い。

 私たちと指揮官の戦いはまだ続いていく。その果てに、私の疑問への答えがあるのだろうか――。

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