## パート3:星と風の少女の秘密
翌朝、俺は早めに起きて森の中で瞑想していた。エリザベートとの特訓は午後からだ。静かな森の中で、内なる虚無と対話していると、軽やかな足音が聞こえた。
「ここにいたの」
アリアの優しい声に、俺は目を開けた。青い髪を風になびかせ、彼女は微笑んでいた。
「おはよう、アリア」
「瞑想中だったのね、ごめんなさい」彼女は申し訳なさそうに言った。
「いや、ちょうど終わるところだったよ」俺は立ち上がった。「何か用事?」
「実は...」彼女は周囲を見回し、小声で続けた。「星魔法の練習をしようと思って。一緒にどうかしら?」
「禁忌の魔法だろう?大丈夫なのか?」
「この森の奥なら誰も来ないわ」彼女は自信ありげに言った。「それに、あなたの力も禁忌でしょう?共に練習できると思ったの」
俺は考え、そして頷いた。「わかった、行こう」
二人は誰も来ない森の奥へと足を運んだ。小さな空き地に着くと、アリアは深呼吸した。
「ここなら大丈夫ね」
彼女は両手を前に出し、集中し始めた。指先から青白い光が放たれ、空中に星型の結晶が次々と形成されていく。それらは空中で浮かび、ゆっくりと回転していた。
「美しい...」俺は感嘆の声を上げた。
「ありがとう」アリアは嬉しそうに言った。「星魔法は未来を示すだけじゃなく、様々な可能性を形にすることもできるの」
彼女の指先から放たれた光が広がり、空き地全体が星空のような景色に変わった。まるで宙に浮いているような不思議な感覚だ。
「これは...」
「星空の投影よ」アリアは説明した。「私の中のイメージを具現化したもの」
星々の間を、小さな光の流れが行き交う。それは銀河のようでもあり、川のようでもあった。
「零も試してみて」アリアが提案した。「あなたの虚無の律動と、私の星魔法を合わせてみましょう」
俺は左手を上げ、漆黒の光を放った。アリアの青白い光と俺の黒い光が交わると、予想外の反応が起きた。二つの光が混ざり合い、銀色に輝く渦を形成したのだ。
「すごい...」アリアの目が輝いた。
渦の中に、様々な映像が浮かび上がる。学園、森、山、そして見知らぬ場所の断片的な光景。
「これは...未来の断片?」俺は驚いて尋ねた。
「かもしれないわ」アリアは真剣な表情で言った。「私の星魔法があなたの力によって増幅されて、より明確なビジョンを見せているの」
映像の中に、七色に輝く光の環が現れた。その中心には、黒い影のような存在があった。
「七色の封印石...」俺はつぶやいた。「そして、レイン・シャドウ?」
「きっとそうよ」アリアは頷いた。「私たちの旅の終着点ね」
光が消え、二人は草地に座った。アリアの青い髪が朝日に照らされ、美しく輝いている。
「アリア、なぜ俺に星魔法のことを打ち明けたんだ?」俺は気になっていたことを尋ねた。
彼女は少し考え、そして素直に答えた。「あなたを信頼してるから」
「信頼?」
「ええ」彼女は微笑んだ。「あなたは誰かを裁いたり、排除したりしない。受け入れてくれる人だと感じたの」
「そうか...」俺は嬉しくなった。「ありがとう」
「それに...」アリアは少し恥ずかしそうに続けた。「あなたには特別な力を感じるの。人を引き寄せる力...」
「引き寄せる?」
「ほら、エリザベートもリリアもシャーロットも、みんなあなたの周りに集まってるでしょう?」彼女は意味深に言った。「以前はバラバラだったクリスタルローズが、あなたを中心に団結し始めているの」
俺は考え込んだ。確かに、最近のクリスタルローズのメンバーたちとの関係は大きく変わっていた。
「零...」アリアが突然真剣な表情になった。「私もあなたの大切な人の一人になりたいの」
その言葉に、俺は驚いて彼女を見つめた。アリアの澄んだ青い瞳には、真っ直ぐな気持ちが映っていた。
「アリア...」
彼女は俺の手を取った。「答えなくていいわ。今はただ、そう感じていることを知ってほしかっただけ」
彼女の手の温もりが心地よく、俺は自然と微笑んでいた。
「ありがとう」俺は静かに言った。「俺にとってもアリアは大切な人だよ」
彼女の顔が明るくなり、頬が薄く染まった。「嬉しい...」
突然、森の中から物音がした。二人は慌てて立ち上がった。
「誰かが来たわ」アリアが警戒して言った。
茂みが揺れ、そこから現れたのは...
「アイシャ?」俺は驚いて声を上げた。
一年生の小柄な少女、アイシャが立っていた。彼女は驚いた表情で二人を見つめている。
「先輩...」彼女は小さな声で言った。「すみません、探していたら...」
「大丈夫だよ」俺は優しく言った。「でも、どうしてこんな森の奥まで?」
「これを届けたくて...」彼女はバスケットを差し出した。「手作りのお菓子です。お礼の気持ちとして...」
「ありがとう」俺は微笑んだ。「本当に律儀だね」
「それで」アイシャは少し緊張した様子で続けた。「先輩は...ウィンドソング先輩と...付き合ってるんですか?」
その質問に、俺とアリアは顔を見合わせた。
「いいえ、違うわ」アリアが優しく答えた。「私たちは友達よ。特別な友達ね」
「そうですか...」アイシャの表情が少し明るくなった。
「アイシャも零の特別な友達になりたいの?」アリアが意味深に尋ねた。
少女の顔が真っ赤になった。「え、あの、その...」
「アイシャ」俺は笑いながら言った。「ありがとう。お菓子、みんなで食べようか?」
三人は森の空き地で、アイシャの持ってきたお菓子を分け合って食べた。アイシャは嬉しそうに二人の話を聞き、時々質問を投げかけてくる。
その光景は微笑ましく、平和なひとときだった。だが、俺の心の中では複雑な思いが渦巻いていた。エリザベート、リリア、アリア...そして今、アイシャまでもが、俺に特別な感情を抱いているようだ。
「本当に複雑になってきたな...」俺は内心つぶやいた。
しかし、不思議と嫌な気持ちはなかった。むしろ、温かな絆に包まれているような安心感があった。
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