## パート4:闇の少女の告白

午後のエリザベートとの特訓を終え、俺は図書館に向かった。次の封印石、「碧玉の封印石」について調べたかったのだ。


図書館に入ると、奥の窓際の席にシャーロットの姿があった。彼女は一人で本を読んでいる。漆黒の長髪が夕日に照らされ、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「こんにちは、シャーロット」俺は声をかけた。


彼女は顔を上げ、微かに微笑んだ。「零、調べものかしら?」


「ああ、碧玉の封印石について」


「私も同じことを調べていたわ」彼女は隣の席を示した。「よかったら一緒にどうかしら」


俺はシャーロットの隣に座った。彼女はクリスタルローズの中で、最も謎めいた存在だ。いつも静かで、感情をあまり表に出さない。だが、その瞳の奥には深い知性と洞察力が宿っている。


「シャーロット」俺は本を開きながら尋ねた。「君はなぜクリスタルローズに入ったんだ?」


彼女は少し驚いたような表情を見せ、そして本から視線を外した。


「知識と力を求めてよ」彼女は静かに答えた。「私は...闇魔法を使える数少ない魔法使いだから、特別な教育が必要だった」


「闇魔法も禁忌の一種だと聞いたけど」


「そうね」彼女は頷いた。「完全に禁止されているわけではないけれど、使い方によっては危険とされている。だからこそ、私は常に自分を律してきたの」


彼女の紫水晶のような瞳には、孤独の色が浮かんでいた。


「君も一人だったんだな」俺は思わずつぶやいた。


シャーロットは少し驚いた表情を見せた。「よく分かったわね」


「俺もそうだったから」俺は笑った。「魔力ゼロと思われ、孤立していた」


彼女は静かに微笑んだ。「私たち、似ているのかもしれないわね」


二人は碧玉の封印石に関する情報を探しながら、様々な話をした。シャーロットの家族のこと、彼女の趣味のこと、そして彼女の夢について。普段は寡黙な彼女が、俺との会話では意外と饒舌だった。


夕暮れが近づき、図書館が閉まる時間になった。二人は資料を整理し、外に出た。


「零」彼女が突然立ち止まった。「素敵な場所があるの、見せてあげる」


彼女は俺を学園の古い塔へと導いた。使われなくなった塔の最上階からは、学園全体と、遠くの山々まで見渡せる絶景が広がっていた。


「ここは私の秘密の場所」シャーロットが言った。「ここで星を見るのが好きなの」


「素晴らしい景色だ」俺は感嘆した。


二人は夕焼けが山の向こうに沈む様子を眺めた。次第に空が暗くなり、星々が一つ二つと現れ始める。


「私はね」シャーロットが突然話し始めた。「ずっと孤独だったの。闇魔法を使う者として、周囲から恐れられ、距離を置かれてきた」


「それは辛かっただろう」


「ええ」彼女は頷いた。「だからエリザベートに誘われてクリスタルローズに入った時、初めて仲間ができたと思ったわ。でも...」


「でも?」


「それでも距離はあったの」彼女は静かに言った。「エリザベートには呪いがあり、リリアとアリアはそれぞれの壁を持っていた。私たちは同じグループにいながら、心は閉ざしていたわ」


シャーロットは星空を見上げた。


「でもあなたが来てから、全てが変わり始めた」彼女の声には温かさがあった。「エリザベートは笑顔を見せるようになり、リリアは素直になり、アリアはもっと前向きになった。私も...」


彼女は俺を見つめた。月明かりに照らされた彼女の顔は、普段の冷静さとは違う柔らかさを帯びていた。


「私も変わりたいと思うようになったの」


「シャーロット...」


「zero」彼女はまっすぐ俺の目を見つめた。「あなたに惹かれているわ。あなたの優しさ、強さ、そして誰をも受け入れる心に」


その告白は、静かだが確かなものだった。星空の下、彼女の紫水晶の瞳が輝いていた。


「驚いた?」シャーロットが小さく微笑んだ。


「少し」俺は正直に答えた。「君は一番謎めいていたから」


「闇魔法使いだからって、恋をしないわけじゃないわ」彼女はからかうように言った。


「もちろん」俺は微笑んだ。「シャーロットも大切な人だよ、俺にとって」


彼女の表情が明るくなった。「それだけで十分よ、今は」


シャーロットが一歩近づき、俺の頬に静かにキスをした。闇魔法使いの唇は、想像以上に柔らかく温かかった。


「私の気持ち、覚えておいて」彼女は囁いた。


星空の下、二人は静かに寄り添っていた。


部屋に戻った俺は、ベッドに倒れ込んだ。一日の出来事が頭の中を駆け巡る。アリアとの朝の時間、エリザベートとの特訓、そしてシャーロットとの夕べ...


「大変なことになってきたな...」俺はつぶやいた。


窓辺のノアが小さく笑った。「予想通りだ。お前の力は、彼女たちの心の壁を溶かしている」


「でも、俺はどうすればいいんだ?」俺は真剣に尋ねた。「みんな大切な人だけど...」


「心配するな」ノアは諭すように言った。「時が全てを解決する。今はただ、彼女たちとの絆を大切にすることだ」


俺は天井を見つめた。かつては孤独だった俺の周りに、今は温かな光が集まっている。それは不思議であり、また喜ばしいことでもあった。


「俺は...みんなを大切にしたい」俺は決意を固めた。


ノアは満足げに喉を鳴らした。「それこそが、真の『虚無の律動』の使い手の心だ」


窓の外では、満月が優しく光を放っていた。


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