## パート2:炎の少女の誘い

エリザベートとの特訓から戻った俺は、午後の授業に向かおうとしていた。特訓は厳しいものだったが、同時に彼女との距離が縮まったように感じた。


「零!」


廊下で呼び止められ、振り返るとリリアが立っていた。赤い髪が朝の光を受けて輝いている。


「リリア、どうしたんだ?」


「今日の午後、予定ある?」彼女が尋ねた。


「特にないけど」


「じゃあ、付き合ってよ」彼女は何かを決意したような表情で言った。「王都に買い物に行きたいの」


「買い物?」俺は驚いた。「なぜ俺と?」


「男性の意見が欲しいのよ」彼女は少し照れたように言った。「それに...その手袋、気に入ってる?」


俺はリリアが贈ってくれた魔法の手袋を見た。「ああ、とても。おかげで力の制御が格段に良くなったよ」


彼女の顔が明るくなった。「よかった!実は他にも試作品があって、意見が欲しいの」


「わかった、喜んで」


「じゃあ、午後の授業後に正門で待ち合わせね」彼女は嬉しそうに言った。


授業を終え、約束の時間に正門へ向かうと、リリアは既に待っていた。彼女はいつもの制服ではなく、赤いワンピースに身を包んでいた。カジュアルながらも洗練されたデザインで、彼女の美しさを引き立てている。


「待った?」俺は尋ねた。


「ううん、今来たところ」彼女は微笑んだ。


王都に向かう馬車の中、リリアは学園の話や、次の封印石についての話で会話を弾ませた。以前の高飛車な態度はすっかり消え、親しみやすい雰囲気に変わっていた。


「リリア」俺は気になっていたことを尋ねた。「君は変わったね。昔は俺のことを見下していたのに」


彼女は少し恥ずかしそうに目を伏せた。「ごめんなさい...あの頃は本当の価値が分からなかったの」


「気にしてないよ」俺は微笑んだ。「むしろ、こうして友達になれて嬉しい」


「友達...」リリアはその言葉を噛みしめるように繰り返した。「本当はね、零...」彼女は何かを言いかけてやめた。「いいわ、また今度」


王都に着くと、リリアは俺を高級ショッピング街へと連れていった。様々な店を回り、時々俺の意見を求めてくる。


「この服、どう思う?」彼女は赤と金の刺繍が施された華やかなドレスを手に取った。


「君に似合うと思うよ」俺は正直に答えた。「でも、なぜドレスを?」


「来月、学園で舞踏会があるのよ」彼女は言った。「知らなかった?」


「ああ、特別クラスに来たばかりだからまだ聞いてなかった」


「それなら」彼女は突然真剣な表情になった。「私と一緒に行かない?」


その直球の誘いに、俺は驚いて言葉を失った。


「え?」


「舞踏会のパートナーよ」リリアは頬を赤らめながらも、まっすぐ俺を見た。「断る理由はないでしょ?」


「いや、もちろん喜んで」俺は思わず答えていた。「でも...本当にいいの?俺なんかと」


「『俺なんか』じゃないわ」リリアは少し怒ったように言った。「あなたは特別な力の持ち主で、私たちの大切な仲間よ」


「ありがとう」俺は心から言った。


ドレスを購入した後、リリアは約束の鍛冶屋へと向かった。そこで彼女は、新しい魔法アイテムの試作品を見せてもらい、俺の意見を聞きながら最終調整を依頼した。


「これでもっと強力になるわ」彼女は満足げに言った。


夕方、小さなカフェで休憩していると、リリアが突然真剣な表情になった。


「zero...」彼女はテーブルの上の俺の手に自分の手を重ねた。「あなたに言いたいことがあるの」


「何だい?」俺の心臓が早鐘を打ち始めた。


「私...」彼女は深呼吸した。「あなたのことが好きになりそうで怖いの」


その告白に、俺は驚いて言葉を失った。彼女の紅玉色の瞳が、真っ直ぐ俺を見つめている。


「リリア...」


「答えはいらないわ」彼女は急いで言った。「まだ私自身の気持ちも整理できてないし。ただ、知っておいてほしかっただけ」


彼女の手は暖かく、その温もりが心地よかった。


「ありがとう、正直に言ってくれて」俺はそっと彼女の手を握り返した。「俺も...君のことを大切に思ってるよ」


リリアの顔が明るくなった。「それだけで十分よ、今は」


帰り道、二人は沈黙の中にも心地よさを感じながら歩いた。学園への馬車の中、リリアは疲れたのか、うたた寝をしていた。彼女の頭が自然と俺の肩に傾いでくる。


赤い髪の香りが鼻をくすぐり、俺は思わず微笑んだ。かつての高飛車な態度からは想像もできない、穏やかで可愛らしい寝顔だった。


学園に到着し、リリアが目を覚ました時、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「ごめん、寝ちゃって...」


「気にしないで」俺は優しく言った。「疲れてたんだろう」


特別寮の入口で、リリアは俺に向き直った。


「今日は楽しかったわ」彼女は柔らかく微笑んだ。「また二人で出かけましょう」


「ああ、ぜひ」


リリアは少し躊躇った後、つま先立ちになって俺の頬にキスをした。一瞬のことだったが、彼女の唇の柔らかさと温かさが残った。


「おやすみ、零」彼女は小さく手を振って去っていった。


俺は頬に手を当て、何が起きたのか理解しようとした。朝はエリザベートと特別な時間を過ごし、今度はリリアと...


「状況が複雑になってきたな...」


自分の部屋に戻ると、ノアが窓辺で待っていた。


「どうやら楽しい時間を過ごしてきたようだな」猫は意味深に言った。


「からかうな」俺は顔を赤らめた。「ただの買い物だよ」


「そうか?」ノアは小さく笑った。「頬にキスの跡がついているぞ」


俺は思わず鏡を見たが、もちろん跡などついていない。


「冗談だ」ノアは喉を鳴らした。「だが、ハーレム形成は順調のようだな」


「ハーレムなんて作ってないよ!」俺は慌てて否定した。「単に友達として...」


「そうか?」ノアは意味深な目で俺を見た。「明日はどの少女と過ごすのだ?」


俺はベッドに倒れ込み、天井を見つめた。確かに状況は予想外の方向に進んでいる。かつての敵が今や親密な友人に...あるいはそれ以上の関係に?


複雑な思いを抱えながらも、心の中では密かな高揚感があった。

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