第5話

「お帰りなさい、兄さま」

 首長府に戻った月黄泉を、秋令は元気に出迎えた。怖かった予知夢のことなど、もうすっかり忘れてしまったかのようだ。

「ただいま。朝食はちゃんと食べたかい?」

「うん。鈴花が来て、一緒に食べたの」

 月黄泉は少し驚き、それから笑みをこぼす。

「そうか、良かったな」

「それでね、このあと泉でネージュの水浴びに付き合ってくれるって」

 ネージュは、秋令の一角獣の名だ。

「そうか。気をつけて行っておいで」

「兄さまも一緒に行く?」

「いいや、私は遠慮しておくよ」

「お仕事?」

「そうだよ」

 秋令は残念そうにしながらも、聞き分けてうなずいた。両親が亡くなってから親代わりに自分を育ててくれた兄に、我が儘を言ってはいけないと我慢しているのだ。

 それに、泉で鈴花と遊ぶのは久しぶりで楽しみなのだろう。

「じゃあね、兄さま。いってきます」

 秋令は籠に布やブラシを入れて、元気に出かけていった。

 その隣に、白い一角獣が弾むような足取りで並ぶ。おそらく、これから水浴びだとわかっているのだろう。

(ずいぶん懐いたものだな)

 一角獣は神の使者と言い伝えられる霊獣だ。巫女姫のもとにとどこからともなく現われ、巫女姫だけに心を許すのだという。

 一角獣と巫女姫とは古来そういうものらしいが、まるで懐いてもらえない月黄泉は少しばかり疎外感を覚えてしまうのだった。

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