第3話
夜明けを待って、月黄泉は住まいである首長府を出て山道を登り、峠の神泉殿へ向かった。
そこでは、月の神を祀る
ちょうど、明るい小さな月が祭壇岩の上に昇り、淡く赤い光を放つ大きな月が遠くの山から姿を現したばかり。
麻織物の祭祀袍の背で、平伏した長瀬木の灰色がかった薄茶の髪が月の光を受けて輝いている。
朝の勤めがひととおり終わるのを待って、月黄泉は声をかける。
「おはようございます、叔父上」
「若長にご挨拶申し上げる」
長瀬木は一族の長である甥に敬意を示して両手を重ねて礼をし、それから尋ねる。
「また巫女姫が予知夢を見たか?」
「はい」
月黄泉は、秋令から聞いた夢をそのまま叔父に伝えた。
黙って耳を傾けていた長瀬木が、やがて重々しく口を開く。
「闇玉が光を増し、昼と夜が逆転する。古くからの言い伝えのようだな」
「言い伝え?」
「おまえも知っているだろう、わらべ歌だ」
お月さまは夜の月
東の空に朝日がのぼる
めでたや ことほげ
みこさまにお仕え申せ
昨夕、秋令も歌っていた。
何代も前の巫女姫が見た遠い未来の予知夢を歌にして語り継がせたものだと言う者もあるが、それも確かな話ではない。
月黄泉は半信半疑で尋ねる。
「昼夜が逆転するなどと、そのようなことが起こりうるのでしょうか」
「我らには想像もつかぬがな」
「ええ。たしかに闇玉は以前と比べて明るくなったと思いますが、昼の月に取って代わるにはほど遠い」
「そうだな。それに・・・・・・気になるのは、巫女姫が見たという黒い人だ」
「黒い髪に、黒い鎧と武器」
叔父と甥はどちらからともなく顔を見合わせた。
近隣の部族にも黒髪の者がいないわけではない。だが、青銅の鎧をわざわざ黒く塗る習慣は、彼らの知る範囲にはなかった。
遠方からの侵略者だろうか。
そして、それがわらべ歌の「みこさま」なのだろうか。
(だとしたら、その者たちがこの地を支配するというのか。我々はどうなるのだ? お仕え申せとは、隷属しろということなのか?)
不安と反発に、月黄泉の胸は重く塞がれた。
長瀬木が言う。
「ともあれ、闇玉の変化に気をつけるとしよう」
今は、それ以外の手がかりはない。
異変が闇玉の変化を伴うものであれば、今日明日のことではないはずだ。
何年も先、あるいは何代も先のことになるかもしれない。
「巫女姫がもう少しおとなになれば、お告げの詳細もわかるようになるだろう」
叔父の言葉に、月黄泉も素直にうなずいた。
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