第17話 本当の黒幕は誰?
澪を脅迫していた女性スタッフが逮捕された翌日――Serilionのメンバーたちは事務所社長から「スキャンダルの件で話がある」と会議室に召集されていた。
会議室の壁は無機質なグレー。装飾の少ない空間に、壁掛け時計の細い針だけが淡々と時間を刻んでいる。長机の上には書類の束と水の入ったペットボトルが並び、蛍光灯の白い光がその表面を鋭く照らしていた。窓の外には高層ビル群が立ち並び、薄曇りの空に沈んでいく夕日が、ガラス越しにぼんやりと映り込んでいる。
室内は静寂に包まれていた。空調の低いうなりだけが響き、時折、ペンを指で転がす微かな音や、誰かが脚を組み替える衣擦れの音が混じる。外の廊下ではスタッフが何か話しているが、ガラスの扉越しに聞こえるその声はぼやけ、言葉の内容まではわからない。
透真が座る椅子の背もたれは固く、長時間座るには座り心地が悪い。ひんやりとした会議机に指を置くと、表面の滑らかな感触が心地よくもあり、どこか緊張を増幅させるようだった。
Serilionのメンバーたちは、息を詰めるように会議室の中で社長の言葉を待っていた。
静まり返った会議室に、社長のよく通る声が響き渡る。
「澪のスキャンダルの件、みんなも心配していたでしょう。調査の結果、あれは残念ながらうちの元スタッフが仕組んだものだったことが判明しました。そのスタッフは澪を脅迫して黙らせようとしていたから、解雇した上で警察に引き渡しました」
事件の詳細を知らなかったSerilionのメンバーたち――律音、凌介、龍之介は、驚いて息を吞んだ。社長の手元には数枚の写真が広げられており、そのうちの一枚が指先で弾かれるように机の上を滑った。
「記事に載っていたこの写真、顔がわからないようにわざとモザイクがかけられていたけど……これは女性じゃなくて透真だった。メンバー同士が一緒にいることなんて、別におかしくないのに。そうでしょう、透真?」
一斉に視線が透真へと向けられる。社長は透真へ意味ありげな表情を見せた。
社長も取り調べを受けたのだから、自分と澪のキス写真を見たはずだ。だが、彼女はほかのメンバーたちには何も言わなかった。
透真は密かに社長に感謝しながら、頷いた。
「……はい。そこに写ってるのは俺です」
「でも、何でそんな写真が……?」
律音が困惑した声を漏らす。社長は目を細め、机に肘をついた。
「詳しい経緯は後で話します。ただ、澪を守るためにも、私たちは公式に発表する必要がある。ファンやメディアに対して、真実を明かし、誤解を解く場を設けようと思います」
「……記者会見、ですね」
澪が小さくつぶやく。その声はどこか安堵を滲ませている。ほかのメンバーたちも、肩の荷が下りたように表情を緩ませていた。
これでもう世間から叩かれる日々も終わるんだ――そう納得しかけた、その時。
「そう。そして、ステージも用意します」
「ステージ?」
社長の言葉に、メンバーたちは思わず顔を見合わせる。
「今、世間から見たうちの評判は最悪よ。これまで通りの活動をしても意味がない……むしろこれを機に、活動方針を見直して前へ進みましょう。ファンの信頼を取り戻し、より強い事務所になるために」
その言葉に、メンバーたちは真剣な眼差しを交わし合う。「……まさか、解散?」と龍之介が囁くと、一同に緊張が走る。
だが、次に社長が告げた言葉に、場の空気は一変した。
「記者会見の場で、新しいアイドルグループを発表します」
「……え?」
澪が思わず息を飲み、透真や律音も驚いたように社長を見つめる。
――Serilionが所属する事務所がほかのアイドルをプロヂュースする……? 俺が知る限り、そんな展開はなかったはずだ。
事務所には確かに練習生が何人か在籍している。けれど、彼らがそのうちデビューするという噂すら、聞いた試しがなかった。透真は自分の知らない物語を見せられた気分になり、イライラと唇を噛む。
思いがけない展開に、龍之介も不満そうに眉をひそめた。
「俺たち以外にも……グループを作るってこと?」
「そう。Serilionの後輩となるグループを、このタイミングでデビューさせることに決めました」
しんとした静寂が会議室を包む。空翔が戸惑いを滲ませながら尋ねる。
「急すぎませんか? ファンも困惑するかと思いますが……」
「元々計画していたけど、今の状況を考えるとこのタイミングが最適だと判断しました。事務所としても未来を見据えないと」
社長の冷静な声が響く。
Serilionのメンバーたちの胸の奥に、言葉にならない不安が広がっていく。まるで、何か大きな波が、彼らの世界に押し寄せようとしているような――そんな予感を拭いきれなかった。
そして、6人が困惑している間に、会議室の外がなんだか騒がしくなってきた。スタッフたちの声が大きくなると、ガラス扉が音もなく開いた。静まり返る室内に、コツ、コツ、と革靴の響きが満ちる。
ゆっくりとした足取りで入ってきたのは、引き締まった黒のスーツに身を包んだ青年だった。センター分けされた黒い前髪から、凛々しい眉と、猟犬のように細く鋭い瞳が見える。すっきりとした鼻筋の下では、細長い唇が何かを企むように弧を描いていた。
会議室は、一瞬静寂に包まれる。Serilionのメンバーたちの視線が、その青年に釘付けになった。
青年はSerilionのメンバーたちが座る長机まで近づくと、背筋をまっすぐ伸ばし、鋭い眼差しで室内を一瞥した。
「彼が、新しいアイドルグループRavageのリーダー……天堂凛冴(てんどうりんが)よ」
社長の言葉に促されるように、青年は片方の口角をわずかに持ち上げた。その顔を見た瞬間、澪と空翔は息を呑んだ。
「……凛冴……?」
澪が小さくつぶやく。まるで過去に取り残された亡霊でも見たかのように、彼の瞳は揺れていた。
天堂凛冴は澪の視線を正面から受け止めると、優しさと憎しみが入り混じったような色を瞳に宿し、片手を軽く上げた。
「久しぶりだな、澪」
親しげな笑顔を澪に向ける凛冴。その様子を見た透真は、ふと澪に以前聞いた話を思い出した。
――澪くんが前に話してた『自分を庇って大怪我をした親友』も、確か凛冴って名前だった。
凛冴の顔は、写真で見た澪の親友にどことなく面影があるような気がする。澪の彼への反応も、元親友だとすれば納得できるものだった。けれど、澪の親友はダンスを踊れないほどの怪我をしたはずだ……。
澪の元へ歩み寄る凛冴の瞳は、かつての優しさを宿しているようでいて、どこか底知れぬ光をたたえている。
「お前……足の具合は? もう良くなったのか?」
澪は息を呑んだまま、目の前の男を見つめる。悲しい別れをした親友の今の姿が信じられない、とでも言うように。
「リハビリを頑張ったんだ」
凛冴は笑いながら、まるで昔話をするような軽やかさで言う。
「リハビリに何年もかかって大変だったけど……澪を助けて負った怪我だから、むしろ毎日誇らしかったよ」
冗談めかした声色とは裏腹に、その言葉には隠された棘があるように思えた。
一方、空翔は座ったまま凛冴を見つめ、かすかに唇を噛んだ。その目には驚きと、どこか読み取れない複雑な感情が滲んでいた。
凛冴の視線が澪の隣にいる空翔へと移る。空翔の目を見つめ、彼は意味ありげに微笑んだ。
「……君も、元気そうで何よりだよ」
空翔は一瞬ためらうように透真を見たが、凛冴を正面から見据える。そして僅かに眉を寄せた。
「凛冴……いったい何をする気?」
いつもとは違う、厳しい口調の空翔に、場の空気が一瞬にして張り詰める。凛冴は少し驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「なんだよ、その言いかたは。人聞きが悪いなあ。そんなつもりないよ。ただ、俺は……もう一度夢を現実にするために戻ってきただけさ」
彼の笑顔は穏やかで、しかしその奥に秘められた感情はあまりに深く、暗い。凛冴は不意に透真へ視線を向ける。その瞬間、透真の背筋に冷たいものが走った。
――なんだ? こいつの視線……妙に不快だ。
はっきりとは掴めなかったが、その視線には確かに悪意が含まれている――透真は直感して、凛冴を警戒した。
会議室に張り詰める空気。社長はその様子を見ても、あえて何も言わず、静かに微笑んでいる。まるで、すべてが計算通りであるかのように。
長い沈黙を破ったのは、凛冴だった。
「さあ、これから楽しくなるぞ」
その言葉とともに、彼はゆっくりと会議室から出ていく。過去と現在が交錯する瞬間——残された6人の胸には、言葉にできない感情が渦巻いていた。
***
薄暗い部屋に、柔らかな間接照明がぼんやりと影を作る。カーテンは閉められ、外の夜風が窓を小さく揺らす音がかすかに聞こえた。部屋の奥にはシングルベッドがあり、その上には使い古されたクッションが無造作に転がっている。壁際のデスクには、練習用の歌詞ノートと開きっぱなしのペットボトルが置かれていた。
「天堂凛冴と、どこで知り合ったんだ?」
透真はそう言うとベッドの端に腰を下ろし、足元のラグを指先で撫でる。フローリングの上に敷かれたそれは、少し毛羽立っていて、長く使われていることがわかる。向かいのローテーブルには、ふたつのマグカップが置かれていた。湯気はすでに消え、ほんのりと残ったコーヒーの香りだけが、部屋に漂っている。
空翔は肩にミミルを乗せたまま窓際の椅子に座り、片膝を立てながら視線を落とした。答えるのを迷っているように、指先でマグカップの縁をなぞっている。
「……凛冴と会ったのは、病院だった」
ぽつりと零れた言葉に、透真は目を細めた。
「病院?」
「うん。俺、子供の頃から身体が弱かったって話をしたでしょ? 大人になってからも入退院を繰り返してたんだ。たぶん、家よりも病院で過ごしてきた時間のほうが長いくらいにね……この世界に生まれ変わった時、ようやく特典としてミミルに健康な身体にしてもらえたんだ」
空翔が肩に乗っているウサギを見下ろすと、ミミルは切なそうに瞳を潤ませた。
外からは遠く車の走る音が聞こえる。静まり返った室内に、空翔の言葉だけが静かに響いた。
「Serilionがデビューする2年くらい前かな……俺が入院した時、隣の病室にいたのが凛冴だった。……アイツ、あの頃はすごく暗くてさ。あんまり塞ぎ込んでたから、看護師さんに『年も近いし話をしてやってくれ』って頼まれたんだ。話も何も、アイツは愚痴ばっかりだったけどね。『俺はすぐに澪に追いつくんだ』とか、『こんな場所にいるのは時間の無駄だ』とか、そんなことばっか言ってた」
空翔はふっと笑い、マグカップを回す。カップの底が机にこすれ、くぐもった音が響く。
「でも、本当は怖かったんだと思う。……怪我のせいで、アイドルを諦めなきゃいけないかもしれないって、怯えてたから」
透真は黙っていた。何かを言おうとして口を開きかけたが、結局言葉にはならなかった。ただ、空翔の声に耳を傾ける。
「俺は……あの時の凛冴に、すごく共感してた。自分じゃどうにもならない理由で、大切なものを諦めなきゃいけないかもしれないっていう、あの感覚……俺もずっと感じてたから。暗いところで繋がった、俺のふたりめの友達だったんだ……」
空翔は小さく息をついた。彼の目は、遠い記憶を見つめるように揺れていた。
「トーマは死んじゃった後だったから知らないと思うけど、前世でも凛冴はRavageとしてデビューしたんだよ。澪も一緒にね。でも結局うまくいかなかった。凛冴はまた足を痛めて引退。澪は芸能界を引退しちゃって……凛冴は這い上がったのにまたどん底に落ちたんだ。見てられなかったよ。だから……これから何があっても、俺だけはアイツの味方でいようと思ったんだ」
部屋の中には、時計の針が進む微かな音だけが響いていた。透真はゆっくりと、空翔の隣にあるマグカップを手に取った。指先に、ほんのり冷えた陶器の感触が伝わる。
「でも、今の空翔は迷ってるように見える」
透真の言葉に、空翔は肩をすくめるように笑った。そして、静かに窓の向こうを見つめた。夜の街の灯りが、ぼんやりと彼の横顔を照らしていた。
「まあね。このタイミングで凛冴が現れたなんてどう考えてもおかしいし……それに、透真も凛冴が怪我した理由、知ってるでしょ? アイツは澪のことになると理性を失うところがあるから、怖いんだ」
「……例の捏造スキャンダルに、凛冴が関わってるかもしれないってことか……?」
空翔は困ったように目を伏せて、「正直、わからない。前世とは違う展開が多すぎて……」とつぶやいた。
深夜の宿舎の静かな夜が更けていく。淡い月光がカーテンの隙間から透真たちを照らしている。
「……そういや、内緒にしてくれてありがとうな」
「何の話?」
「俺と澪のキスしてる写真のこと」
「あ~、あれね」
「俺と澪がキスしてる写真見て、引かなかったのか? 普通、もっと驚くだろ」
「トーマが澪を好きなことなんて前から知ってたからね」
その言葉に、透真の呼吸が一瞬止まった。
「……知ってたのか?」
「うん。ずーっと前からね」
あまりにもあっさりとした答えだった。
しかし、その瞬間、透真の頭の中で何かが弾けるように繋がった。
――この感覚……この話し方……。
「待ってくれ、お前……」
透真はゆっくりと空翔を見つめ直す。
「……お前、まさか……フライ……なのか?」
空翔の表情がわずかに動く。ミミルが驚いたように息を呑んだ。部屋の空気が張り詰める。
だが、次の瞬間、空翔はふっと息を吐き、柔らかく微笑んだ。
「やっぱり。トーマはいつか気づいてくれると思ってたよ」
その声は、懐かしい記憶を呼び覚ます響きだった。透真の胸の奥が熱くなる。
「本当にフライなのかよ!? なんでもっと早く言わないんだ」
「前世の記憶は軽々しく公言していいものじゃないんだよ!」
ふたりの会話にミミルが割り込んできたので、透真は即座に「ウサギは黙ってろ」と言い捨てた。
「俺とトーマの仲なら言わなくてもわかると思ってたからね~。まあ、気づくまでに結構時間かかったけど」
「ご、ごめんって」
「そもそも、俺がミミルに『友達のトーマも一緒に転生させてください』ってお願いしたんだよ?」
「えっ」
「君と澪の仲が進展するように取り計らってたのも俺だし~?」
「はあ? いつ!?」
「えーっと……ミミルにお願いして雨を降らせたりとか?」
「うわ、あれお前の仕業だったのかよ!」
透真がショックで叫ぶと、空翔は楽しそうに声を立てて笑った。前世で顔を合わせたことはなかったが、親しかった友人との再会は純粋に嬉しい――透真はこの世界に生まれ変わってから初めて、自分の味方を見つけた気分だった。
「……俺たちでSerilionを守ろうな」
透真は空翔の顔を見つめたまま、ゆっくりと拳を握った。空翔も同じ気持ちのようで、深く頷いている。
――凛冴が何を仕掛けてくるかわからない……だけど、俺たちならきっとSerilionを守れるはずだ。
ふたりの願いを知っているミミルは、何とも言えない表情でふたりの間を浮遊していた。
***
翌日――夜の稽古場。練習を終えたメンバーたちはすでに帰り、広いスタジオには透真と澪の二人だけが残っていた。
鏡張りの壁に映るのは、静かに向かい合うふたつの影。外の街灯がぼんやりと差し込み、汗を滲ませた澪の横顔をかすかに照らしている。
「透真……」
澪の声が低く響いた。 ゆっくりと透真へ歩み寄る。かすかに荒い息遣いのまま、伸ばされた手が透真の腕に触れようとする。
透真は一瞬、その手に身を委ねそうになった。心の奥底で求めていた温もり。それが今、手を伸ばせばすぐそこにある。
――でも、ダメだ。
透真はわずかに肩を揺らし、澪の手からすり抜けるように一歩後ろへ下がった。
「今はやめとこう」
穏やかな拒絶だった。澪の手が空を掴み、そのまま静止する。
「……どうして?」
掠れた声が、透真の胸を締め付けた。
「例の黒幕が何を仕掛けてくるかわからないし、まだ記者たちは澪くんを狙ってるだろ。今の状況で近づくべきじゃない」
透真は唇を噛みしめ、己に言い聞かせるように言葉を続けた。
「澪くんとSerilionを守るためには……俺は、この気持ちを諦める覚悟だってできてる」
沈黙が落ちる。澪はゆっくりと目を伏せると、再び顔を上げ、悲しげに微笑んだ。
「……結局、そういうことか」
「え?」
「アイドルとしての俺は好きだけど、素の俺は好きじゃないってことだよな?」
その言葉に、透真の目が見開かれる。
――違う。
そう叫びたかった。しかし、言葉が出ない。疑われたことへの衝撃が、思考を一瞬奪った。気づけば、口から出たのはずっと胸に秘めていた言葉だった。
「俺は、前世の時から澪くんに救われてきたんだ」
澪が息を呑む。
透真は、震える声を抑えながら続けた。
「だから今度は、俺が澪くんを……Serilionを、救いたい」
心からの言葉だ。しかし、澪の表情は曇ったままだった。
「……俺から離れたくて、非現実的なことを言ってるのか?」
澪の目には、信じたいのに信じられない葛藤が滲んでいた。それも当然だ―― 透真は真実を口走ってしまったことを早くも後悔しながら、説明を続けた。
「前に『澪くんのおかげで、生きることをもう一度頑張ろうと思えました』って書いてたファンレターがあったろ?」
「……?」
「俺が送ったんだ。前世の俺が澪くんに言ったことを思い出してほしくて……」
透真の言葉に、澪は理解しがたいと言いたげに眉を寄せた。
「嘘だろ……?」
その一言が、静かな部屋に響く。澪の目が大きく揺れた。
透真はただ、澪を見つめていた。長い沈黙のあと、澪は小さく息を吐き、そっと視線を落とした。
「前世がどうとか、意味が分からないけど……お前が俺と距離を置きたいのはわかった。しばらく離れておけばいいんだな」
それだけを言い残し、澪は踵を返して歩き去っていく。
透真は、ただその背中を見送ることしかできなかった。
――届くまで、どれだけ時間がかかるのか。
けれど、それでも。この想いを、偽ることはできなかった。自分の幸せとSerilionを天秤にかけるのなら、何度でもSerilionの存続を選ぶ。
ひとりきりになった透真がしばらく俯いていると、スタジオの扉がそっと開く。そこには、律音が気まずそうな顔をして立っていた。まだ密かに残っていたらしい。
「透真……大丈夫か? 澪に無理矢理迫られてるなら、俺からやめるように言ってやるよ」
「え? あー、ごめん、違う違う。そうじゃなくって……俺も澪くんのことが好きなんだ」
「……そうなのか?」
律音は不思議そうに透真を見つめている。律音は本当に心配してくれているようだった。透真は急激に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「気を遣わせてほんとごめん……なんとかするから、律音は気にしないでくれ」
「そうか。まあ、俺と違ってお前は相手の気持ちにちゃんと応えられるもんな」
律音は切なそうに言ってから、スタジオを去っていく。その後ろ姿を見つめて、透真はため息をついた。
Serilionを失いたくない。みんなで成功したい。願いは同じはずなのに――お互いを恋しく思うほどに、どうしてこんなにもすれ違ってしまうんだろう?
透真は頭を抱えて唸った。
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