デート、深夜0時、橋の上で。
空野 雫
𝒔𝒆𝒆 𝒚𝒐𝒖 𝒂𝒈𝒂𝒊𝒏
ドンッと音がした。
うつむきながら歩いていたせいで気づかなかった。通行人と肩がぶつかったようだ。
やけに痛い。肩?違う、お腹の辺りだ。
痛みを感じるところに手を伸ばした。
手が濡れた。液体は暖かく手に張り付いてくる。その手を見ると綺麗な深紅の色で染まっていた。
刺されたことに気づいた時には立っていられなかった。
人が集まってきてなにか言っているが聞き取れない。視界がぼやけていく。
そして、私は笑った。
「ああ、ようやく死ねる。」
いつからだろう。おかしくなったのは。
自分の口から出る言葉がまるで自分のものでは無いような感覚を覚えたのだ。
玲奈がいなくなって、5年がたっていた。
朝起きて、仕事をして、帰ってきたらご飯を食べ、風呂に入り、寝る。
ずっと繰り返してきた。
周りの友達は結婚したり子供が出来ていたりする。
まるで、自分だけ別の世界に閉じ込められているように自分だけがあの日から進まない。
住む場所を変えた。見た目も変えた。
でも変わらなかった。
変えたいものは君のいない現実。それだけだった。
「じゃあ、お前は死にたいの?」
何度も自分にした質問。答えはノー。死ぬ訳には行かない。
玲奈が悲しむ。責任感の強い子だから自分のせいで死んだと知ったらきっと泣きわめいてしまう。
だから私は自分で死ぬことが出来ないのだ。
自分が刺されたと知った時、嬉しかった。わくわくした。心がスキップしてしまいそうだ。
ああ、もうすぐ会える。ずっと会いたかった。キスしたかった。愛されたかった。癒されたかった。満たされたかった。話したいことが山ほどあった。謝りたかった。慰めてほしかった。頑張ったってほめてほしかった。壊れるくらい抱きしめたかった。骨が折れるほど抱きしめられたかった。
なんて声をかけようか。久しぶり。会いたかった。頭の中は君に会えた時話したいことでいっぱいだ。
『ごめん!待った?』
迎えにきてくれたんだ。
『本当にいいの?』
そうだよ。もう限界なんだ。楽になりたい。
『助けてって言った?』
何を助けて欲しいのか分からないから言葉に出来なかった。
『ちゃんと寝てた?』
寝てない。君が死んだあの日から真夜中にいつも目が覚める。
『ご飯は?』
食べてた。でも、痩せた。
『ごめんね』
大丈夫だよ。君は悪くない。僕が弱いのがいけないんだ。
『私達これからは一緒にいれるのかな?』
そうだよ。
『うれしい?』
もちろん。
『私はうれしくないな』
どうして?
『何故でしょーか???』
またそうやってからかう。
『えへへー』
なんなんだよ。
『ねぇ、死にたかった?』
うん。
『いつから?』
少し前。
『本当は?』
分かってるくせに聞くなよ。
『いーいーかーらー』
5年前からずっと。
『何で友達に言わなかったの? いっぱいいるじゃん』
みんな僕が立ち直ったと思ってる。その気持ちを裏切りたくなかった。
『そうやって1人で何でもやろうとするとこ嫌いって言ったじゃん』
……僕は思ったより冷たいヤツだった。苦しいって相談してくれた人がいたんだ。僕はその人の相談に乗って君を相手にするように大切にして本気で助けたいって思ってた。
『……それで?』
その子には彼氏がいた。それ自体はどうでもよかったんだ。僕は君が好きだから。
ただ、僕は心配だったから会える時に会ったり遊んだりして元気かな、大丈夫かなって確認したかった。そしたらね、みんなこういうんだ。「彼氏がいるから会えないよ」って。
当然なんだけどさ、そう言われて僕は……イラついたんだ。悪いのは僕だ。恋人がいるって知ってるんだから。でも抑えられなくて酷いことを言った。僕にだって君がいる、大切な人がいるんだって叫びたかった。僕だって苦しい!助けてくれって言いたかった!それでも心配だったから力になろうとしたのに……
最低だろ? 嫉妬だよな。付き合いたいわけじゃないのに大切にされたかった。見返りを求めていたんだ。自分の本心に気づいた時、自分が嫌いになった。
本当の自分を知った時、体の中で何かがちぎれた。
君が優しいところが好きだと言ってくれたのにその部分がなくなっていくのが耐えられなかった。
『そっか』
嫌いになった?
『んー、最近一緒にいないし分かんない』
じゃあ今から行くよ。
『……あの時と一緒の言葉だね』
あの時?
『私が苦しくて深夜に連絡した日。君は会いに行くよっていって走って会いに来てくれた。私が泣き止むまで抱きしめてくれた。すごく……暖かったよ』
『私ね、あの時死ぬつもりだった。でも君が生きる希望をくれた。その時思ったの。君は幸せにならなくちゃって』
『……まだ死にたくないでしょ?』
『本当はまだ生きたいでしょ?』
僕はただ……君に会いたいんだ。
『私達はもう生きる世界が違うの。だから会えないんだよ。でもね、お願いだから生きて。私からのお願い』
……僕は、もう無理だ。
『大丈夫だよ。私が見てる』
…………また、会えるかな?
『うん。またね!』
「―ぶで……か。大丈夫ですか!?」
気がつくと私は救急車に乗せられていた。
私は泣いていた。さっきまであんなに楽しみだと思っていたのに泣いていた。
玲奈、大好きなんだ。本当に。いつか私の人生を一緒に笑って欲しい。その時が来るまで―
またね。
デート、深夜0時、橋の上で。 空野 雫 @soraama1950
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