第3話 挑戦状

 閻魔の間の壁に設置された大型モニターに映る小太りの三毛猫、ミケ・ピヨットラー。ドアップで映る見栄っ張りな三毛猫の姿を見て閻魔は驚き、勢いよく立ち上がる。


 その拍子に閻魔は膝で机を蹴り上げてしまい膝に激痛が走る。さらに机の上のコーヒーが飛び上がって顔にかかり閻魔は悶絶。熱さのあまりのたうち回って近くの窓に顔から突っ込み、窓ガラスを破り外へ飛び出してしまう。


 閻魔の顔にはガラスが刺さり血塗れに。顔に垂れる血が歌舞伎メイクを施し、イケメン歌舞伎俳優が鼻で笑う程の男前になった。せいぜい三枚目寄りの二枚目半。


 三毛猫のミケはやや高めの声で宣言した。

「にゃーはっはっはっ! この事件は我々の計画通りですにゃはっ! 地獄は今、我らの手に落ち、囚人は我らの兵隊となりました。よーろ昆布こんぶ、よろ昆布」

 全てが順調に運んで、地獄を自らの思い通りにできたことを高らかに宣言する。ミケの声は次第に喜びに弾んでいった。


 閻魔は顔のガラス片を全て抜くと、ミケ・ピヨットラーについて苦々しげに語る。


「奴の名はミケ・ピヨットラー。とある星のファシズムの指導者、アホウ・ピヨットラーの愛猫として数々の悪行を重ねた囚人だ。アホウの世界征服の過程で大量虐殺をした時には、動けなくした罪無き人の喉元を噛み切り殺害して楽しんでおった。動物史上最大の悪で無間地獄へ落とすことも検討された猫だ」


 満面の笑みを浮かべてミケは大きな声で続きを話し始めた。

「これは全地獄放送です。みなさん私の名前を覚えてくださいね。さて、この計画を実行するにあたって協力してくれた皆さんを紹介するとします。さあ、自己紹介してさしあげて」


 ミケの後ろに4人の鬼が現れた。

 その内の1人がミケの前に出てきた。目のところに傷のある蛙である。

「俺様はケロケロ外道。泣くおたまじゃくしも黙る両生類。許し難きは田んぼのたがめ! 以上」

(たがめ? 他に言う事があるだろ糞蛙)と口には出さずにミケは顔をしかめる。


 次に大きな柿がピョンピョン跳ねながら前に出てきた。赤く熟れた柿は3つ目に大きな口がついていた。

麿まろは柿砲台。渋柿で無いでおじゃるよ」

(この公家気取りめ)とミケは口をへの字に曲げる。


 その次は黒い鳥が羽ばたいてミケの上を飛び前に出てきた。体長2メートルはありそうな烏だ。

「吾輩、不埒鳥であーる」

 それだけ言うとその場にドサッと座り、不埒鳥は弁当を開けて食べ始めた。


「不埒鳥! そこ退け!」

 ミケが歯を剥き出しにして不埒鳥を叱る。すると、不埒鳥はミケを横目で見て弁当を食べながらにらみつける。

「後ろへ下がれ不埒!」

 後ろから大きな声で誰かが命令すると、大人しく不埒鳥は後ろへ下がった。


 最後は不埒鳥へ後ろに下がるように命じた痩せぎすの男が出てきた。朱色の和服を着流し三味線を巧みに弾く。男は細い顎を動かし何やら口ずさみ、細い目は妖しげであった。

「私は化本ばけもと鬼幽きゆう。策士の鬼幽、策幽さくゆうと呼ばれている。私のことは策幽と呼ぶがいい」

 不敵な笑みを浮かべ策幽が三味線を弾くと怪し気な旋律が流れた。


(そうそう、こういうのでいいんだよ策幽)

 ミケは下品な笑みを浮かべる。しばらくは策幽の好きにさせていたミケだが……。

(……一体いつまで演奏する気だこいつ)

 ミケは苛立ち尻尾を激しく地面に叩きつける癖が出てきた。その音が耳に入った策幽は、尻尾が地面を叩く音に合わせて三味線を弾いた。口元を歪めて笑いながら。


 こいつら4人はモモ四天王である。と言うことは……。


 黒い猫がゆっくり歩いて前に出てきた。ミケはその猫に場所を譲ると、ギリギリ自分がモニターに位置へ移動した。


 黒猫は毛がペチャっとしていて、鍵尻尾であった。青い釣り上がった猫目をカッと見開くと口を開いた。

「俺の名はモモ・ブレンディ。こいつらの頭だと言っておこう。さて、俺の目的は1つ。その目的のために閻魔、お前の首を取らせてもらう。覚悟しろ」

 モモは閻魔の首を取る、そう宣言した。


 ここでモモはミケと交代してモニターに映らない所へ移動した。再びミケが香箱座りをする。

「さて、自己紹介も終わった所で私から挑戦状を叩きつけさせていただきますにゃはっ!」

 ミケはそう言うとモニターに写真を次々に映す。

 獅子王・中村ニャン吉。

 花尾集太郎。

 ペラペーラ・ア・ホーン。

 三世レモン。

 馬野骨男。

 可児鍋クラブ。

 焼鳥タレ。

 などニャン吉の仲間が映る、だけではなく更に写真が映る。


 山田もっさん。

 イーコ・ブール。

 真珠あああ。

 鷹派鳩派。

 などビッグ5。


 御結武蔵。

 土手鍋小次郎。

 穴子宗厳。

 酢牡蠣信綱。

 祖雄卜伝。

 などの師匠たち、五剣士。


 焼鳥一族。

 大蛇兄弟と酒呑童子。

 などが映された。


「にゃーはっはっはっ! 彼らは我々に逆らう一派です。そうそう、これは指名手配です。この写真のやつを我々のいる魔境地獄の伏魔殿へ連れてきてください。そうすれば褒美はたんまりやるにゃはっ! 生死は問いません、以上!」

 ミケは満足気に微笑み話を止めると、その周りにモモや四天王が集まってきた。そして、怪しく強力な妖気を漂わせる。底無しの邪悪な力を皆に見せ付けると画面が消えた。


 ニャン吉たちは、いや地獄中の皆が思った。

(指名手配の中にが無かった)


 閻魔が「やはり奴は――」と言いかけると武蔵がそれを遮り「離間作だ!」と喝破した。


 武蔵の言葉で閻魔の間は波を打ったように静かになった。


 ニャン吉は沈黙を破り「鬼市は仲間だにゃん!」と言い切った。


「大王、奴らは我らを指名手配にした上、更には鬼市を我らとを分断しようとしております。我らを狙いつつ同士討ちを狙う……奴らの内に相当な策士がおりましょう」

 武蔵の説に閻魔はまだ疑問を抱いているようであったが、武蔵への信頼からその説を入れた。


 ――地獄へ挑戦状を叩きつけたミケ達。その頭のモモは恐るべき威圧感があった。そして、鬼市に対する疑いを抱かせる策を使ってくる。


『次回「仲間を探せ」』

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