第4話 仲間を探せ

 魔界鬼市のみを指名手配から外したミケたちの狙いは明白である。鬼市をニャン吉たちと分断することだ。


「ところで獅子王、あいつらは今どこにいる?」

 仲間の居所を聞かれても答えられず黙り込むニャン吉。弟子たちの情けなさに武蔵は深い溜息を吐いた。


 慌てて骨男が2人の間に立った。

「まあまあ、それなんだがよ。クラブとタレならどこにいるか知ってるぜ」

「どこだ、骨男」

 落胆していても仕方がない。パッと切り替えて、武蔵は現在居所が判明している仲間について詳しく述べるよう促した。


「クラブは竜宮へ帰ったんだ。タレは火炎地獄へ何かをしに行ったらしくってよ」

「そうか! よし、獅子王。まずはクラブとタレを探しに行け。で、どっちが確実だ?」

「クラブだ、あいつぁ竜宮へ帰るってはっきり言ったからな」


 多少なりとも希望が見えてきた。武蔵は続けて他の仲間のいそうな場所を聞くが、骨男の顔が曇る。

「師匠、さすがにおいらもレモンと集太郎とペラアホのいる所までは想像もつかねぇ。ましてや鬼市の居場所なんて分かりっこねえ」

「分からないものはしょうがない。まずは獅子王、竜宮へ行け。俺はやることがある」


 武蔵の指示を受けたニャン吉は勢い良く立ち上がる。

「はい! 行くにゃん!」


「ニャン公、おいらもやることがあってついていけねえんだ。この縮地輪っつーのと招き邪王猫っていうのを量産しねえといけなくってよ」

 骨男は縮地輪と招き邪王猫を見せながら説明した。ニャン吉の顔は徐々に引きつる。招き邪王猫のモデルはニャン吉だろうと容易に予測できたからだ。

「なんで招き邪王猫なんや」

「そんなんどっちでもいいじゃねえか。じゃあ縮地輪を渡すからよ、早くクラブの所へ」


 真っ黒い首輪の縮地輪を受け取り首に巻いたニャン吉は、クラブのいる竜宮へ縮地する。


 ――水地獄の竜宮では、玉座に離岸流一家と全兵隊が集合し合戦の陣列を揃えていた。白い大理石の床と緑色の絨毯が見えなくなるほど所狭しと魚鬼たちがならんでいた。クラブもその中にいた。


 ニャン吉はクラブを見かけると「クラブ!」と大声で呼んだ。

「相棒! 無事だったか!」

 再会を喜び互いに近況報告をする。玉座を振り返るとクラブは離岸流家の方々をニャン吉に紹介する。


 大黒柱で雪だるま見たいな見た目の乙姫の夫・離岸流魚右衛門ぎょえもんが無言でニャン吉に微笑みかける。

 離岸流花畑もニャン吉の方へ駆け寄り「あら、お久しぶり。獅子王のニャン公」と嬉しそうに手を取ると、魚右衛門と乙姫の子供たちもニャン吉に歩み寄る。

 長男・魚男うおお

 次男・邪々麻呂じゃじゃまろ

 三男・苦死宇無くるしうない

 長女・棘花とげはな

 三女・裏裏裏うらみ

 この中に我らも知る次女・花畑を加えて男四人、女四人の離岸流家であった。祖父母は今ここにはいないらしい。


 ニャン吉は離岸流家の大黒柱の魚右衛門にあいさつをした。

「初めまして、新番犬の獅子王ですにゃ」

「……」

 魚右衛門は黙り込んだままである。黒豆のような小さくて丸い目でこちらを見ると、微笑みかける……が一言も発しない。


 長男の魚男は髪の毛を総立ちにして金髪に染めている。さらに、鼻や口にピアスをいくつも空けて肩にも龍の入れ墨を入れている。エナメルの黒い服を着てロックシンガーを思わせる風貌。彼は「うへへ、囚人使うたぁ敵さんやるねぇ」と嬉しそうに棘のついた金棒を舐める。


 次男の邪々麻呂は重装歩兵並の銀の鎧を装備し、銀髪のオールバック。刀ほどの大きさした通称・串と呼ばれる鋭い針を刀のように手に取り、「串に刺して炙ってやろうぜ」と嬉々としている。


 三男の苦死宇無は束帯を着て烏帽子を頭に被る。歯は全てが金歯であり、眉を剃っておでこに描いている。笏を右手に持ち、グツグツ煮えた油が満たされた鉄のヤカンを左手に持つ。彼は「何と愛おし囚人よ」と優雅に足でセンスを広げた。


 長女の棘花と裏裏裏は震えていた。

「私たち怖い……この騒乱を見せられたら自分を抑えられそうにないもの。囚人狩り……1度やってみたかったのよおお!」

 慈悲の欠片もない系の武者震いをしていただけのようだ。


 花畑がニャン吉に気になっていたことを尋ねる。

「ねえ、獅子王さん。もっさんはどうしているの?」

「今、鬼に転生中だにゃ」


 ニャン吉が言い終えると同時に、竜宮の窓ガラスが割れる音がした。玉座の上方のガラスを突き破り囚人兵が宮殿内に侵入してきた。


「わっはっはっ! 肉体さえあれば、もはやお前らなど怖くないわ!」と豪語する囚人兵。

 割れた窓から次々に囚人兵が侵入してくる。


 この一大事に離岸流家及び水地獄の鬼たちは平然と囚人を見ている。特にタコ入道イカは馬鹿笑いして「窓ガラス割って豪語したぜ、こん囚人。あ、タコ入道イカー」とおどけている。それにはさすがの乙姫も見過ごせず、タコ入道イカをムチで叩いて活を入れる。


 囚人兵は恨みのこもった声で竜宮の者たちに宣言する。

「お前ら! よくも今まで俺を拷問してくれたな! この竜宮は今日から俺様が頂いてやる!」

 積年の恨みを晴らそうと囚人兵は一斉に竜宮へなだれ込んで来た。戦闘開始。


 囚人兵を迎え撃つべくニャン吉も番犬化した。しかし、戦闘に参加することを乙姫が制止する。

「ここは私たちだけで充分です。ニャンクソ……獅子王よ、クラブを連れて行きなさい」

「でも!」


「はよ行けやニャンクソ! 地獄……いや、冥界の命運はあなたたちにかかっているのですよ。囚人との合戦などという面白……いや、鬼としての使命を我らは今果たすべき時。さあ、征きなさい! クラブ、英雄・可児鍋家と水地獄の名に恥じない働きをするのですよ」

 その燐とした声にクラブは感極まって乙姫の御前に畏まる。


「乙姫様! このクラブ、身命を賭してこの度の合戦に獅子王とともに挑みます」

 勇ましい言葉を残し颯爽とニャン吉の方へ駆け寄るクラブ。英雄の一族に相応しいその勇敢さ。クラブの潔い言葉に乙姫は微笑んだ。


 クラブは何かをふと思い出してニャン吉に待ったをかける。そして、乙姫の方を振り返りもう1つ言い残す。

「……もし、私が無事に帰って来ることができたなら、この騒乱の前にあなた様が酒をかけて壊したエレキギターを新調してもら――」

「征けやカニ! はよ征けやカニ!」


 水地獄の皆に後を託して、ニャン吉とクラブは火炎地獄の下り門へ縮地した。


 ――油断した。ニャン吉は仲間がどこにいるのか分からない。そして、モモ、ミケ連合軍にどうやって勝てばいいのかも分からない。暗中模索のニャン吉は仲間を求めて旅立った。


 緊急事態宣言、レベルニ。地獄封鎖ヘルロックダウン


『次回「火中を探せ」』

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