火葬の日

茶村 鈴香

火葬の日

お笑いライブの当日券を買い

私は立派なホールの後方席にいる


“今頃 煙と灰となりゆく養父”


勘違いしていたらしくメンバーに

お目当ての演者はいない


“もうすぐ 煙と灰となりゆく養父”


ステージは遠く天井は高い

あの演者の声が聞きたかったのに


“数人の関係者に葬られる養父”


平日昼間 若く可愛い女の子たち

いい天気だと笑いあう恋人たち


“戒名もなく土に還る養父”


これからどんな出し物がきても

私は笑い 拍手を送るだろう


二度と 養父に

二度と 会わなくていい


『父さん

私にも骨を拾って欲しかった?』


いつか 養父のために

手を合わせる事ができたとき


私ははじめて 自分自身が

最期を迎える権利を得る


いまはまだ 親不孝の極み

親を憎んだまま 生きる業を背負って


『葬儀当日 お笑いのライブ鑑賞とは

さすがに当てつけすぎた? 父さん』


『絶対に お笑いのライブ鑑賞なんて

行かせてはくれなかったよね 父さん』


女の子たちも 恋人たちも 笑い疲れて

気に入りの演者の噂をしながら席を立つ


見上げるホールの高い天井

養父の煙はあの高さより上空に消えたか









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火葬の日 茶村 鈴香 @perumi

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