妖精

水曜

第1話

 深い森の奥に、小さな妖精たちが住んでいた。その中でも特にいたずら好きな妖精——フィルは、毎日森を歩き回っては人間を驚かせることを楽しみにしていた。


 ある日、フィルは村に降りてきた。そして、洗濯物を干しているおばあさんの服を風で飛ばしたり、市場の果物をこっそり入れ替えたりと、散々いたずらを繰り返していた。


 「ひゃっひゃっひゃ!  今日はいいいたずらができたぞ!」


 満足そうに森へ戻ろうとしたフィルだったが、突然どこからか「うぅ……」という小さなうめき声が聞こえてきた。


 「ん?  何の音だ?」


 フィルが音のする方へ向かうと、森の中で一人の少年がうずくまっていた。顔は青ざめ、額には汗がにじんでいる。どうやら高熱を出しているようだった。


 「お、おい!  大丈夫か?」


 妖精の姿は普通の人間には見えないが、フィルは心配になり少年に声をかけた。しかし当然のことながら、少年は気づかない。ただ苦しそうに息をするだけだ。


 「うーん、困ったな。妖精の魔法でなんとかできるかな?」


 いたずらばかりしていたフィルだったが、実は妖精の力で草木を操ることができた。そこで彼は、森に自生している薬草を探し始めた。


 「えーっと、この葉っぱは熱を下げるって、おばあさんが言ってたっけ?」


 フィルは何枚かの葉を集めると、それを少年の額にそっと乗せた。妖精の魔法が込められた葉は、瞬く間に少年の体へと作用し、少しずつ熱を下げていく。


 「ふぅ、これで少しは楽になったかな?」


 翌朝、フィルが再び少年の様子を見に行くと、すでに彼の顔には血色が戻り、安心したように眠っていた。


 「よかった……さて、いたずらに戻るとするか!」


 フィルは満足げに笑いながら、その場を後にした。


 それからしばらくして、村では「妖精の恩返し」についての話が広まった。誰もフィルの姿を見ることはなかったが、少年が助かったことを知った村人たちは、毎日森の入り口にお供え物を置くようになった。


 「えっ、こんなにたくさんの果物がある! 」


 フィルはそれを見てにんまり笑った。


 「いたずらとして、もらってしまおう!」


 こうして、いたずら好きな妖精フィルは、いつしか「森の守り神」として村人たちに親しまれる存在となっていった。

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妖精 水曜 @MARUDOKA

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