【KAC20253】スズメの妖精

るいす

🐤

 田舎の小さな村には、古くから伝わる不思議な言い伝えがあった。


 それは「トリの降臨」。


 ある年の春、村の大樹に無数のスズメが集まり、子供たちを優しく見守るというのだ。スズメたちはただの鳥ではなく、妖精の化身であり、村の未来を担う子供たちを導く役目を持っているという。


 今年も桜の花がほころび始めたころ、一人の少年が大樹のもとを訪れた。名を陽向(ひなた)といった。彼は村のはずれで母と二人暮らしをしていたが、母の体は弱く、家計も苦しかった。いつも自分に何ができるのかを考えていた。


 「何か、僕にもできることがあればいいのに……」


 ため息混じりに呟くと、頭上で小さな羽音がした。ふと見上げると、大樹の枝に数羽のスズメがとまっていた。くちばしをちょこんと動かしながら、まるで話しかけるように陽向を見つめていた。


 「おまえたち、もしかして……妖精なの?」


 陽向がそっと手を差し出すと、一羽のスズメが軽やかに舞い降りた。そして、彼の肩にとまると、小さく囀った。


 ——困っているの?


 確かに、そう聞こえた気がした。驚いた陽向だったが、思い切って話してみることにした。


 「僕は母さんを助けたいんだ。でも、お金もないし、力もないし……」


 スズメはくるりと跳ねながら、再び囀った。


 ——大丈夫。君の優しさは、きっと形になるよ。


 その瞬間、どこからともなく春風が吹き、枝に咲いた桜の花びらが舞い散った。そして、大樹の周りに無数のスズメたちが降り立ち、羽ばたきながら陽向を包み込むように飛び回った。


 「トリの降臨だ……!」


 村の老人が、驚きと共に呟いた。これほど多くのスズメが降り立つのは、特別な兆しだという。


 その日を境に、陽向の暮らしは少しずつ変わっていった。村人たちは、彼がスズメたちと話したと知ると、こぞって手を貸してくれた。「困ったときはお互い様だ」と、母の看病を手伝う者、仕事を分けてくれる者が現れ、次第に生活は安定していった。


 そして陽向自身も、村の子供たちに文字を教える役割を任されるようになった。彼の言葉には、不思議と人の心を動かす力があった。まるで、あの日スズメがささやいたように。


 春が終わり、夏が過ぎ、季節が巡っても、陽向は毎日大樹のもとへ通った。そして、いつかまたスズメたちが降りてくる日を心待ちにしながら、子供たちに優しく語りかけた。


 「君たちの優しさは、きっと形になるよ」


 大樹の上では、小さなスズメたちが静かに羽を休めながら、その言葉を見守っていた——まるで、陽向の成長を祝福するように。

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