キーワードは『妖精』

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 アーデルハイドは戸惑った。

『わたし、妖精さんなの』

 そう名乗った生き物が、トリである。

 トリの降臨である。

「えっと……アンタ誰?」

『見ての通り、妖精さんだよ? 見た目は賢く見えるフクロウの姿を採用しています』

「おい……神と見分けがつかん」

 アーデルハイドがアーモンド形の目を吊り上げて抗議すると、トリは戸惑ったように首を傾げた。

 可愛い。

 アーデルハイドは、神を見た時とは違う胸のときめきを覚えた。

 神を見た時には、あの胸肉美味しそう、とチラッと思ったことを思い出した。

 いま目の前にいる妖精を名乗るトリさんは、フクロウの姿をしているが可愛い。

 これは妖精さんということで正解なのだろうか?

 アーデルハイドは悩んだ。

『あのね、それでね。いまね、妖精たちでお茶会をしているの。アーデルハイドが良い子なので、お招きしようと思って来たの。ねぇ、アーデルハイド。来ない?』

 トリが首を反対側に傾げた。

 可愛い。

 この女の子たらしが。

 アーデルハイドは心の中で毒づいた。

 アーデルハイドは七歳。

 乗馬服をこよなく愛する女の子だ。

 同年代の女子たちが、ドレスだの宝石だのと騒ぎ立てるのをよそに、広大な侯爵家の庭を所せましと飛び回ることを日常としている。

 ところがこのアーデルハイド。

 可愛い物には目がない。

 そんなアーデルハイドの前に、可愛い妖精のトリの降臨である。

 しかもお茶会に誘われたのだ。

 断る理由があろうか?

 いや、ない。

「行くっ!」

 遠くで教育係のミス・ローハイドが、アーデルハイドを呼ぶ声がしたが、そんなものは無視だ。

 ミス・ローハイドは可愛くない。

 アーデルハイドにとって、可愛いは優先されるものなのだ。

『では、わたしの背中に乗ってください』

 あろうことか、妖精は自分の背に乗れという。

 アーデルハイドは鼻血を吹きそうだった。

 ヨチヨチとおぼつかない足取りで背中を向ける妖精。

「えっと……どうやって乗るの?」

 フクロウ型の背中は広いが、どちらかというと縦型である。

 サイズが大きければ跨がれるかもしれないが、妖精はアーデルハイドとさして大きさは変わらない。

『ん~、おんぶでいいですか?』

「承知したっ!」

 アーデルハイドはペイと妖精の背中に飛びついた。

 『あー……足は回されちゃうと翼が広げられません』

「あっ、ああ。すまない」

 アーデルハイドは翼の上に回した足を解いた。

「んー……足も使わないと、腕だけだと不安定だ」

『それなら、翼を広げてから足でもつかまっててください』

「あ、そうかっ」

 妖精が横に翼を広げると、アーデルハイドはその下を通すように足を回してギュッとつかまった。

『落ちないように気を付けてくださいねー』

「はーい」

 元気に返事をしたアーデルハイドを乗せて、妖精は飛び立った。

「アーデルハイドさま⁉ アーデルハイドさま⁉」

 ミス・ローハイドの頭上を飛んでいるのだが、彼女がアーデルハイドに気付くことはなかった。

『妖精は、普通の人間には見えないのです」

「そうなんだ。でも、わたしは人間だよ?」

『今のアーデルハイドは妖精と一体化しているから、人間から見えないの』

「そうなんだ」

 妖精って便利だな。

 アーデルハイドはそんなことを思いながら、ミス・ローハイドを置き去りにして妖精のお茶会へと向かった。

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