記憶をたどる地図
久しぶりに実家へ帰る途中、鞄の底からふと 古びた紙が出てきた。
「..... これ、昔作った地図だ」
青いインクで書かれた、子供の頃の秘密の地図。見た目は何の変哲もない地図だ。住み慣れた町の地図で、ただ、地名だけがおかしい。
駄菓子屋はお菓子の城だし、近所の怖いおじさんの家は鬼の巣だ。これは子供の頃、友達と一緒に作ったもの。
ただの落書きではなく、特別な青いインクで書いた場所には「特別な思い出」が残る。秘密基地で拾った青いインクを『思い出インク』と呼んでいた。
地図に書かれた場所に立ち、そっと指で文字をなぞる。すると――視界の端で何かが揺らめいた。もう新築の家になってしまった場所に、かすかに駄菓子屋の幻影が浮かび上がる。透けた子供たちは笑いながら駄菓子屋に駆け込み、キャッキャと笑う声が聞こえる。
新しいホームセンターでは雑木林が、遊歩道の下にはよく遊んだ川が見える。今と重なって見える懐かしい光景を楽しみながら、町を歩く。最後に空き地に向かう。
地図に姫の城と書かれた場所。何もない場所に透けた一軒家が見える。ベランダから少女がこちらに手を振った。
元気なその姿に胸が痛む。この幻影の数日後、ここで火事があった。不審火で、そこから数日後に犯人は捕まった。けれど。
「またここに来たの?」
何にも残って無いのに。そう言って女性は隣にならんで空き地を見た。何もない、でも少し懐かしい場所。
「でも、きっとこんな気分になるのも最後だから」
隣の女性を見る。その顔にはひどい火傷の痕があった。その顔が、幻影の少女と同じ顔で笑う。
「何?感傷に浸ってるの?」
「ちょっとだけね」
彼女の指先が、自分の指に絡む。
「母さんも、お義母さんたちも待ってるよ」
そう言って手を引かれた。
明日姫は自分の妃になるーー。
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