ゴーストライター

 リビングの写真立てに飾られた曽祖父の写真が、ずっと気になっている。書斎で撮られたもので、曽祖父は穏やかに笑っている。曽祖父の後ろの机には、閉じたノートが置かれている。

 そのノートは祖母曰く、物書きだった曽祖父が物語を綴っていたものらしい。ノートに下書きを書いて、原稿用紙に清書するのだ。

 その写真のノートは、なぜか夜明け前になると少し開いている。初めに気づいたのは祖母だった。夜中に水を飲みに降りた時、その変化に気づいた。

「初めは気のせいかと思ったんだけどね」

 確かにページの隙間が広がっているように見えたという。祖母はただ不思議そうに言った。その後、母が見て、自分も見た。

 けれど写真が動く事を怖いとは感じなかった。曽祖父が優しい人だったからかもしれない。

 その後、ビデオカメラを引っ張り出して夜の間撮影する事にした。夜明け前の4時頃、ゆっくりとノートが開く。閉じたのは周囲が明るくなってきた頃だった。

「死んでもまだ書いてるんだね」

 祖母は目を細めて、あきれたように呟いた。曽祖父はよく、昼夜が逆転した生活を送っていたそうだ。曽祖父は夜遅くまで物語を書き、祖母が起きる頃にようやく寝ることも多かったそうだ。

「最後まで書きたかったのかねぇ」

 写真に写っているノートの話は完結していなかったらしい。ノートを探すと、確かに最後に書かれた話は途中で、何よりとてもいいところで途切れていた。これは確かに書ききってしまいたいだろう。

 その日はノートとペンを机の上に置いておく事にした。

 翌朝。祖母と共に書斎を覗く。ノートには真新しい文字が増えていた。その事に自分は背筋がゾクリとしたが、祖母はおかしそうに笑っていた。

「そんなに書きたかったのね」

 祖母の視線を追って、ノートの最後を見る。

 物語の最後の余白に、たった一言、『ありがとう』と記されていた。それから、写真のノートが開くことはなかった。

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