第31話 いつか必ず救う
聖城が仁との通話を切り、成海宅に訪れる。
「聖城さん……話が、違うじゃないか」
成海宅に案内され、誠二が恨めがましい目で聖城を見やる。
「残念でしたね。成海さん」
「残念でしたねじゃないんだよ! どうしてくれるんだ! 計画が全部っ、台無しじゃないか!」
「ええ、そうですね」
聖城は笑ってみせる。
「これじゃ、借金が返せない!」
誠二が頭を抱える。
「自己破産するしかないですね」
「じっ、自己破産!?」
誠二が絶望の声を上げる。
「ま、待てよ! こ、こ、この1000万、なんとか俺のものにできないか?」
誠二は冷や汗をたらしながら、すがるように聖城に尋ねる。
「無理ですね。1000万の所有権は成海瑠美菜と胡桃の元にあります」
「そうだっ、俺は、あのふたりの親だぞ! 子どもにそんな高額な金は扱えない。俺に所有権があるはずだ!」
「前時代的ですね。そんなのは昔の話ですよ。それに、あなたにはもう胡桃さんと瑠美菜さんとは会うこともできない」
「は? どういうことだよ」
「そのままの意味ですよ。今回の計画をすべて、奥さんに話しました。離婚が成立するようですよ。そして、そのまま胡桃さんはお母さまに引き取られ、瑠美菜さんは引き続き、瑠美菜さんのお母さまのもとに親族権が与えられる。あなたはもう、ふたりの親じゃない」
「そ、そんなのっ、あり得るのか!?」
「ええ、この個人株制度ができてから子どもを商品として売り出す輩が多く出ましてね。それで、この法律が制定されました」
「お、おい、嘘だろ?」
「嘘じゃありません。現に、最近、胡桃さんはこのお家に帰ってきてないでしょう? それすらも気づかなかったんですか。あっははは。…………あぁ~あ、本当に残念だ」
聖城は不気味な目をして、笑う。
「なっ、何笑ってんだよ!」
「……本当に、本当に、本当に残念ですよ。あなたの夢の輝きは潰えてしまった。あなたの夢は面白かった。でも、それよりも大きな夢の輝きがあった。それに、あなたは負けた。あなたはちっぽけな不発弾。何の輝きもない。まったく美しくない。黒玉。失敗作だ……」
「な、何を言っているんだ」
「つまり、あなたの出番はお終いというわけです。それじゃあ――――
さようなら」
そう言って、聖城は去る。
「おい! 待ってくれよ! 俺はどうしたらっ……」
聖城は鼻歌を歌いながら、成海宅を出て、暗い電柱が灯す薄明かりの中、スキップをする。
「やっぱり面白かった。桐生仁。さすが僕の敬愛する人物、氷の女王、桐生氷花部長の息子だ。
「…………氷花さん。僕に託してくれた『人の夢を輝かせる』こと。今回もあなたの代わりにできましたかね。まだまだですよね。不甲斐ない。もっと頑張りますよ。これからもあなたの代わりに多くの人間の夢を輝かせてみせます。
そしていつか必ず――――
あなたを救います」
聖城は純粋な夢と希望を秘め、暗闇の中へと消えてゆく。
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