後編 幸せに暮らしました
「まぁ、採ってきてくれたの? ありがとう!」
この森に来てから1年程だった。
妖精たちが見つけてくれたログハウスは、随分前に誰かが使っていたものらしく、見つけた時は思わず身構え、家に入るのも躊躇っていた。
けれど、家に入ってすぐ、『この家に来た人へ。大切に使ってください』とご丁寧に置手紙があったので、今ではありがたく使わせてもらっている。
――水や食料は妖精たちが運んでくれるし、乳母が亡くなってから使用人達と同じ生活をしていたお陰で、料理・洗濯・掃除・裁縫は一通り出来るから、誰の目も気にせず悠々自適な生活が送れるって最高ね!
貴族だった頃の地獄の日々を思い出し、感慨深く思いながら妖精たちが持ってきてくれた食料を使い、鼻歌を歌いながら自分と妖精たちの分のご飯を作る。
すると、外から帰ってきた妖精が私の耳元に囁いてきた。
「えっ、国王陛下が私を探しているの?」
驚いて手を止めた私は、外から帰ってきた妖精から話を聞く。
森の外に出ていた妖精曰く、卒業パーティーの翌日、外交のため隣国を訪れていた国王陛下は、帰国した際、ドヤ顔で出迎えたバカ王子の隣に妹がいることに違和感を覚え、息子に問い質す。
すると、鼻の穴を大きくしたバカ王子が、卒業パーティーの時に私と婚約破棄をし、妹を婚約者にして、私を国外追放したことを得意げに話した。
それを聞いて激高した国王陛下は、臣下たちがいる前で息子をビンタした。
どうやら、国王陛下は私が『妖精の代理人』だったことを知っていたらしく、女神様の恩恵を預かるためにも私を息子の婚約者にした。
もちろん、そのことを息子や私の家族にも話していた。けど……
「まぁ、あのバカ王子は大の勉強嫌いで、自分にとって都合の良いことしか聞かないから」
妹と同じく両親から溺愛されているバカ王子は、面倒ごとと努力することが大嫌いで『何もしなくても自分は国王になれる!』と言って臣下たちに何もかも押し付けていた。
そのくせ、王族としてのプライドはあるため、臣下に押し付けていたことを全て自分の手柄にしたり、自分にとって耳ざわりのいいことしか聞かなかったりしていた。
――大方、陛下が言っていることなんて理解出来なかったのでしょうね。そうじゃなきゃ、婚約破棄はおろか、国外追放だってしなかったのだから。
「でもまぁ、私の家族も同じでしょうね」
代々有能な魔法師を輩出しているというプライドがあるお陰で、魔力の無い私を見放し、膨大な魔力を持っている妹を溺愛した両親は、『妖精の代理人』である私を害するとどうなるか分かっていなかったのだろう。
だって、あの人たちにとって魔力が全てなのだから。
深く溜息をついた私は、止まっていた手を動かす。
――遅かれ早かれ、国境近くにあるこの森にも捜査の手が届く。そうなれば……
「この森にずっといたいなぁ」
誰の目も気にすることなく、妖精たちと自由気ままに過ごしたい。
そんな私の願いを妖精たちが聞き届けられたのか、捜査の手が届く前にこの世界から魔力が消え、魔法大国だった祖国はあっという間に滅国した。
そんな話を妖精たちが聞いた数日後、妖精たちの悪戯でこの森に入ってきた騎士と出会った私は、彼の優しさに惹かれて恋に落ちてしまった。
【KAC20253】魔力が無くて婚約破棄された私は、実は希少な妖精使いでした 温故知新 @wenold-wisdomnew
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