あこがれの人 KAC20252

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

あこがれの人

 僕にはあこがれの人がいる。

 大学でよくすれ違う、ボーイッシュな雰囲気の黒が似合うバチバチピアスのスラリとした女子だ。

 切れ長の瞳があまりにも綺麗で、僕はひと目で恋に落ちた。

 首に巻きつけられたチョーカーも格好良いし、ゴツい指輪も長い指が映えて綺麗だ。

 彼女はいつもひとりで大股で歩いていて、涼しげな目元を惜しげもなく周囲に見せつけている。

 地味な僕には、周囲の目を気にせず好きなものを選択する彼女が眩しく映っていた。


 ◇


 ある日のこと。

 大学構内で次の講義に足早で向かっていたところ、大柄の男子と肩がぶつかり地面にダイブしてしまった。

「い……っ!」

 振り返ると、大柄の男子が振り向きもせずスマホで通話しながら歩き去っていくのが見える。

「ええ……」

 鼻の頭を擦りむいたのか、ヒリヒリする。

 するとその時、僕の目の前に膝をついた黒い影があった。

「大丈夫か? 酷いな、突き飛ばしておいて無視なんて。ほら、手」

 聞き心地のいい低音ボイスだ。差し伸べられた手にはゴツい指輪が嵌まっている。

 うおう、と思わずビビった。

 すると大きな手が伸びてきて僕の手を掴む。そのままグイッと勢いよく引っ張られ、立ち上がった。

「あっ、す、すみませんっ」

「気にするなって。それより怪我は?」

「えっと、あのっ、大丈夫――」

 僕よりも背の高い彼の顔を見上げた次の瞬間、驚きで息が止まった。

 僕の手を心配そうに握っていたのは、あこがれの彼女だったからだ。

 ん……? 彼女? あれ、この声……。よく見るとチョーカーの奥に見えるのは喉仏じゃ。

 口をあんぐりと開けて彼女、もとい彼の綺麗な顔を見つめていると、彼が僕の鼻の頭を指でちょんと触る。

「擦りむいてる。可愛い顔が台無しじゃねえか」

「か、可愛い?」

 すると彼が目を見開いて僕を凝視した。

「……あれ? よく目が合う可愛い女の子がいるなって思ってたけど、まさか男……?」

「ぼ、僕も格好いい女の人がいるなって思ってたんですけど、男だったんですね……?」

 思わず率直な言葉で返す。

 僕たちはしばし無言で見つめ合った後。

「……連絡先交換しない?」

「あ、はい、是非」

 お互いにスマホを取り出すと、二人とも何故か目元を赤らめつつ連絡先を交換したのだった。

 

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