21話 まだかざってある花

その日は泣きすぎた。


ミリはどうしても眠れなかったので、

女子寮が寝静まった時間になって布団から出ることにした。


部屋から出ると、床が音を立てないよう、

ローカをゆっくりと歩んでいく。


体温はすぐに低くなり、全身に鳥肌が立った。


ずっと剣道で鍛えてきた足は、ひどく頼りなくて、

壁に手をつきながらでなくてはまっすぐに歩けない。


少しは強いつもりだった。

主将としても、人間としても。


だが、何も足りてはいなかったのかもしれない。


何が『鬼の以西』だ。

何が主将だ。


1年の頃は、井芹や本村、

2年の頃は、いつも村瀬に助けてもらっていた。


そして今は、

藤堂や島内、2年生や同期のみんなから守られている。


ミリは自分を強いと思い込んでいる、

ただの凡人だったのだろうか。


ホントの強さを手に入れることは、

一生できないのかもしれない。


ミリはいつかしたように、

玄関の上がり框に腰かけた。


ふと、良い香りがした。

花の香りだ。


ミリはそれを追った。


24時間開放されている学習室に、

香りのみなもとがある。


静かに入ると、カウンターテーブルの上に

見覚えのある花瓶と生け花があった。


しばし見惚れたミリは、

すぐにカードが置いてあるのに気付く。


『紫陽花』


書かれたそれだけの文字が、天から降り注ぐ雨のように、

こころに染み込んだ。


あんなことがあったのに、

ふるごーりは花を飾ることを続けていたのだ。


弱っちいと思っていた彼女こそが。

そして、強いと思っていた自分こそが。


ミリの目から、

とめどなく涙があふれ出す。


「ぐっ・・・ぐくっ・・・」


「う・・・うううぅ・・・」


「・・・ううあああああああああああん」


ミリはやっと理解した。

自分の弱さを。

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