第5話 崩壊夜想曲(ディザスティック・ノクターン)

 迫りくる水牛の群れに思わず頭を抱えた瞬間、景色は再び変じた。

 そこは元の部屋。


「ごめんなさい、回天堂さんなら一回経験があるからって羽目を外しすぎちゃった」


 そういう亜咲花さんは先程までとは異なり、わたしを心配するような表情でこちらを見ていた。

 先程といい、一年前と比べて随分と感情表現が豊かになったなぁ……。

 わたしは先程まで本気で驚いていたのに、今は彼女の成長を噛み締めていた。


「それで、その妖精って一体何なのかしら?」


 わたしは本題へと切り込むことにする。

 彼女の超能力は知っているが、それと今回のことが関係するのであればその理由を聞くことで自体解決への糸口は見えるかもしれない。


「妖精は、いわゆる幻想的な存在ではないの」


 そう亜咲花さんが話を始めた。

 その内容は、母である鳥之陽凪博士の研究内容だという。

 もっとも夫である比奈島博士にすら伝えなかった、二人だけの秘密ゆえ、研究精度そのものは疑義が残るという。

 ともかく、その話を聞いたわたしは、一つの仮説を組み立てることができた。

 それは、事態解決の糸口であると同時に課長が示した事と符合する事実。

 つまり、変革は静かに始まっているという可能性だった。


 恐らく課長は別の意味で使っていたのだろうけど、わたしが導き出した仮説は間違いなく人類の変革と進化を意味するものだ。

 ……ただ、それと同時にそれが本格化すれば、今の社会構造から考えて早々に崩壊が始まってしまうものだ。

 それに、こんなに静かにそして強制的な進化はわたしにとっても認めることはできない事態だった。


 わたしはこの夜想曲のように静かな崩壊を食い止めるため、力を借りるべき人物の元へと向かいことにした。


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