第4話 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ

「トリの降臨?」


 少女は庭の木に止まる小鳥を指さしながら、母親に質問した。


「トリノ光臨よ、文字にしたら分かるかしらね」


 母親は笑顔で少女の間違いを訂正する。

 手近なメモ帳を手に取り「トリノ光臨」と書く母親の横顔を見ながら好奇心が抑えられないと言った表情だった。


 その光景は少女、鳥之亜咲花とりのあさかいや、神戸亜咲花かんべあさかにとっての原風景だった。


 ***


「はぁぁーー」


 亜咲花さんの話を聞いてわたしは深いため息をついた。

 話が長いからではない。

 まさか、彼女の超能力とトリノ光臨が関連していたことへの驚きのためだ。


「なら、今、外で起きている現象の原因も分かるってこと?」


 わたしは少し興奮気味に質問する。

 すると亜咲花さんは静かにうなずくと右手の人差し指を上に向ける。

 何かあるのかとわたしが凝視すると、次第にその指に小さな光が集まっていくのが見える。


「な、なに?なに?」


 思わず飛び退き素で慌てるわたしを見て、彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、次の瞬間クスクスと笑いながら左手の人差し指を自分の口に当てて「静かに」とサインを送ってきた。

 わたしは無言で数回首を立てに振り肯定の意思を示した。

 すると亜咲花さん再び右手の指を静かに伸ばす。

 そこにまた光が舞い踊っている。


「これはね、妖精スプライト

「スプライト?」


 わたしは思わず聞き返す。

 トリノ光臨の関連資料にそんな名前を見た覚えがないからだ。


「私とお母さんだけの秘密だったから、資料にはないと思うよ」


 そう言うと少しイタズラを思いついた子どものような笑顔になり、わたしを指さした。

 次の瞬間、わたしの周囲の形式が一変した。

 わたしはいつの間にか博物館の外に立っている。

 そして、その博物館に向けて何かが突進してくるのを見た。


「な、なんで!?」


 わたしは思わず声を上げていた。

 博物館へ向かってすべてをなぎ倒しながら接近してくる存在。

 それは見間違うことはない。

 バッファローと呼ばれる水牛の群れだった。


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