第3話 超能力とトリノ光臨
「松井……さんっ!?」
専用パスを使って博物館の入り口をくぐると、そこに待っていたのは見知った顔だった。
1年ほど前、回天堂に業務外で依頼してきた人物。
当時は松井管理官を名乗っていたが、依頼の内容が問題だったため更迭されたと聞いていたのだが……。
「お久しぶりです。回天堂さん」
そう言い微笑む中年女性は間違いなく松井管理官その人だ。
「あの、辞められたと聞いていたのですが……」
「表向きには依願退職しております」
遠回しな言い方で進退を聞いてみるが、彼女は想定済みの様だ。
「諸々の対応を考えると現状維持、ただし行動には監視付き。それが今の私ですよ」
松井管理官はそう言いと「さあ、こちらへ」と奥へとわたしを誘った。
***
そこはかつて来たことがある部屋。
窓のない部屋に大きなベッドと机、それに本棚。
本棚には様々なジャンルの本があるけど、どれもページの端が日に焼けて古さを感じさせるものばかり。
何も変わっていないあの部屋。
わたしがそこへと入ると以前と同じ姿で彼女がいた。
「神戸さん……」
一瞬の躊躇したが、わたしは意を決して少女に声をかけた。
かつてわたしが依頼を受けた少女。
彼女は
「回天堂……さん?」
「…………」
どうやら彼女はわたしのことを覚えてるらしい。
だから、わたしもあの時と同じ雰囲気で返す。
「そ、株式会社回天堂、早速ですが今回のご依頼の件についてお話させてください」
わたしはカバンから書類一式を取り出し説明を始める。
トリノ光臨の起こす局所極光のことや、その研究について。
それらを亜咲花さんは聞き入る。
彼女はなぜそこまで聞き入るのかは、不明だが一言一句、それこそ報告書に書かれた内容も漏らさせないとばかりに確認していた。
一体何が彼女をそこまで真剣にさせるのか?
わたしはその疑問を感じつつ説明を終える。
「ほんと、変わってないなお父さん」
その時、亜咲花さんはポツリと呟いた。
お父さん!?
いや、彼女は災厄以前から冷凍睡眠処置をされていたので、なので生まれたのは、わたしなんかより以前だ。
だけど、ならなんで神戸姓を名乗っているのだろう。
博士の苗字は『比奈島』。
そして亡くなられた配偶者の先代所長は『鳥乃』。
どちらも『神戸』ではない。
「彼女の能力が政府に確認された時に、ご両親から隔離されたんです」
わたしが混乱した表情を浮かべそうなのを察した松井管理官が耳打ちした。
なるほど、彼女の能力か……。
亜咲花さんがこの博物館に保護されている理由。
それは、彼女の能力にある。
一言でいえば超能力と呼ばれる物であり、簡単なものなら有りもしないもの人に見せることから、見える範囲の物体を動かすまで様々だ。
「お母さんがトリノ光臨の研究を初めたのも、わたしの能力からなのよ」
「まさか……」
亜咲花さんの意外な言葉にわたしは驚きを隠せなかった。
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