第6話 決闘

学校が終わり、約束の午後6時が近づいてきた。

結城はVRデバイスを装着し、『EdenSlayer』にログインする。


ログインすると、すでにクラスメイトたちが集まっており、決闘の準備が整っていた。

会場となるのは、初心者向けのコロセウム――だが、ここではすべてのプレイヤーが戦うことができる。


「じゃあ、神埼と優希、戦ってみてくれよ!」


クラスの陽キャが面白がって煽る。

神埼はクラスでそれなりに強いと評判のプレイヤーで、剣士職を選んでいた。


「へへっ、まあ手加減してやるよ」


神埼は剣を軽く回しながら不敵な笑みを浮かべる。


「決闘開始!」


合図と同時に、神埼が剣を構え猛然と突進してきた。


結城はわずかに首を傾ける。


(どうする…?全力はさすがにまずいか。)


ここは適度に戦うフリをして、負けるか、ギリギリ勝つくらいに調整するべきだ。


だが——


「うおおおおっ!」


神埼の剣が結城に向かって振り下ろされる、その瞬間——


結城の体が、勝手に動いた。


「——速い」


神埼の剣が届く前に、結城のナイフが神埼の喉元に突きつけられていた。


「決闘終了!」


試合が始まった瞬間、神埼は倒れていた。


「……は?」


静寂が場を包む。


「おいおい、嘘だろ……」


「……え?」


神埼がようやく状況を理解し始めたのか、驚きと戸惑いが入り混じった声を漏らした。


「ま、待てよ……今の、本当に俺が負けたのか?」


戦闘不能の表示が何度見ても消えない。システムが間違っているわけではない。


「う、嘘だろ……」


彼は呆然としながら自分の剣を見つめ、そして結城の方を睨みつけた。


「お前……一体、何者なんだ?」


クラスメイトたちの視線が、一斉に結城へと集まる。


(やばいな、やっぱり手加減しすぎたか……)


結城は何とか言い訳を考えようとしたが、周囲の反応がそれを許さなかった。


「ちょっと待って、今の戦闘ログ見てみろよ!」


陽キャグループの一人が戦闘ログを開くと、そこには驚愕の記録が残っていた。


《新条優希は「急所突き」を発動。致命的一撃を与えた》


「は? 急所突きって、発動しても確率で失敗するスキルじゃなかったか?」


「ていうか、発動しても一撃で終わることはないだろ!?」


「しかも……発動率、異常に高くね?」


その場にいた誰もが、結城の異常な強さを察し始める。


天音も腕を組んで結城を見つめたまま、微かに笑みを浮かべていた。


「ふぅん……なるほどね。」


「な、何がだよ?」


神埼が苛立った様子で聞き返す。


「いや、これね。単なる『運』じゃないかって思ったのよ。」


天音が淡々と説明を始めた。


「優希のステータスは……おそらく、運に特化してる。」


「え?」


「戦闘ログ見ればわかるでしょ?通常なら発動が難しいスキルが100%発動してる。つまり、スキルの成功率が異常に高い。それに、初日からレアアイテムを手に入れてるし、これは偶然じゃないわ。」


天音は、結城の目をじっと見つめる。


「……たぶん、私よりもステータスが高い。」


その一言が場の空気をさらに凍らせた。


(やばいな、これ……)


結城は焦った。


確かに自分の「運」は異常に高いが、それを公にしてしまうのはまずい。


「ま、待ってよ!そんな大げさな話じゃないだろ?たまたま上手くいっただけで……」


「たまたま、ねぇ?」


天音は疑うように結城を見つめた。


「まぁ、いいわ。今すぐに全てを問い詰めるつもりはないし。」


「ほっ……」


「でも、興味はある。」


天音はニヤリと笑い、結城に向かって指を突きつけた。


「次は、私と戦いなさい。」


「……え?」


結城の心臓が、一瞬で跳ね上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る