第7話 異変

「……ん?」


突如、地面が揺れた。


ゲームのシステムメッセージかと思ったが、違う。揺れは徐々に激しさを増し、まるで現実世界の地震のようだった。


「おい、なんだこれ!?」


クラスメイトたちも驚き、混乱する声が次々と上がる。


VRの中で地震なんてイベントは聞いたことがない。しかも、振動がリアルすぎる。


「一旦ログアウトしよう!」


天音が叫び、それに皆が続いた。結城も慌ててログアウトのコマンドを開き、操作する。


《ログアウトしますか?》

→YES


視界が暗転し、意識が現実へと戻る――はずだった。


目を開けた先にあったもの

結城はVRゴーグルを外し、目を見開いた。


「……は?」


視界に映るのは、見慣れた自分の部屋――ではなかった。


そこに広がっていたのは、EdenSlayerの世界そのものだった。


空には二つの太陽が輝き、大地には見たこともない植物が生い茂る。遠くには巨大な城のような建物がそびえ、見慣れた家々はどこにもない。


「おいおい、嘘だろ……」


結城は混乱しながら、自分の手を見た。


肌の感触、風の匂い、草のざわめき……どれもリアルすぎる。


「これ……ゲームじゃないのか?」


胸の鼓動が速くなる。


本当に、俺はゲームの世界に来てしまったのか?


外の世界へ

混乱しつつも、結城は家から飛び出した。


そこには、さらに信じがたい光景が広がっていた。


街の風景は完全に変わり、周囲には見たこともない建築様式の建物が並んでいる。人々は鎧をまとい、武器を携え、魔法らしき光を操っていた。


「やばい……やばすぎる……!」


さらに驚いたことに、近くにはVRの中で見たことのあるクラスメイトたちの姿もあった。


彼らも同じように混乱し、周囲を見渡している。


「一体、何が起きたんだ……?」


結城は、目の前の光景に息を呑んだ。


現実のはずの世界が、完全にEdenSlayerのものに置き換わっていた。建物の造り、空の色、遠くにそびえる城、全てがゲームの中で見たものと一致している。


「……優希!」


振り向くと、天音が真剣な表情でこちらを見ていた。


「やっぱり……あんたもここにいるのね。」


「お前も……ってことは、他のみんなもか?」


結城が辺りを見渡すと、混乱するクラスメイトたちの姿があった。彼らも現実との違いに戸惑い、騒ぎ始めていた。


「くそ、どういうことだよ!」 「俺たち、本当にゲームの世界に入っちまったのか……?」 「こんなの冗談じゃない……!」


ザワザワとした空気の中、結城は深く息を吸った。


「……確認するか。」


彼は意を決し、右手を前に突き出した。


「ケル!」


次の瞬間――空間がゆがみ、黒い炎が舞い上がる。


その炎の中から、漆黒の巨大な影が姿を現した。


「……グルルル……!」


ケル――本来の姿を取り戻したケルベロスが、地響きを立てながら現れた。


「お、おい!」 「でかっ……!」


クラスメイトたちが息を呑む。


ケルはゲーム内で見たときよりも巨大で、まるで戦場の主のような威圧感を放っていた。


「お前、本当に召喚したのか……?」


天音が目を見開いて結城を見た。


「みたいだな……」


結城はケルの背に飛び乗ると、そのまま軽く合図を送る。


「ケル、空を飛べるか?」


ケルは低く唸ると、四肢に力を込め、一気に飛び上がった。


「うおおっ!」


強烈な風が巻き起こり、ケルが大空へと舞い上がる。


下を見ると、街の全体像がはっきりと見えた。


円形の都市、その中心には巨大な城がそびえ立っている。ゲームの中と全く同じ景色が広がっていた。


「完全に……EdenSlayerの世界そのものじゃないか……!」


結城はケルの背に乗ったまま、深く息をついた。


「なら、ここがゲームの世界だとして……俺たちは、どうすればいいんだ?」


結城の疑問に、天音が地上から叫んだ。


「一旦降りてきなさい! みんなと話し合うわよ!」


「わかった!」


結城はケルの首を軽く叩き、地上へ降下するよう指示を出した。


ケルが大きく旋回しながら降りていき、ふわりと地面に着地する。


結城が地面に降り立つと、天音が真剣な表情で口を開いた。


「どうやら、本当にゲームの世界に閉じ込められたみたいね。」


「……だな。」


「とにかく、まずは情報を集めましょう。ここがどうなっているのか、そして……私たちのステータスがどうなっているのか。」


結城は静かに拳を握った。


「わかった。まずは、自分たちの実力を確かめるか……!」

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