あこがれの異世界転移

よつ葉あき

あこがれ


 キキーーーーッ!


 耳を塞ぎたくなるような不快な爆音がして振り返ると、目を開けられないほどの光に襲われた。これ、トラックのへッドライトか。と思った瞬間、俺の体は吹っ飛ばされた。


 ──そして死んだ。


 最近のラノベや漫画のテンプレ展開。代わり映えしない毎日に「つまんねぇな」が口癖だった俺は期待してしまった。

 トラックに轢かれて死んだ。てことはアレか、アレだよな?

 もしかして⋯⋯あこがれの異世界転生か転移が出来ちゃうのか!?



 そんな事を考えて居ると───。




「やったぞ!」

「勇者の召喚に成功だ!」



 そんな声が聞こえ目を開けると、漫画で見た事ある光景が広がっていた。これぞ、勇者召喚の儀式!

 壁も床も石造りで、俺の足元には魔法陣と思われるものが描かれている。周りにいる数人の人達は黒いローブを目深に着ていて、顔はよく見えないが喜んでいるのがわかる。そして──


「勇者様!」


 目を潤ませ手を胸の前に組んだお姫様が現れた。頭にはティアラが乗っていて、お伽噺のお姫様が着てるような、ふんわりとしたスカートのロングドレス。

 でも何故かゲームや漫画でありがち。胸元だけぱっくり開いていて、胸の谷間が見えていた。

 なんで胸、強調してんの? 姫としてその格好は大丈夫なの?

 と突っ込みたくなったが、お姫様はこれまたテンプレな台詞を言った。


「どうかこの国を、魔王の魔の手からお救い下さいませ!」


 考える間もなく鎧を着せられ、伝説の剣を持たされ、魔王の城へと連れてかれた。


 これまたテンプレ、ステータスもあった。

「ステータス」と呟けば、半透明のウインドウが現れた。そこに書かれたステータスは⋯⋯



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 Lv.∞/勇者



 HP:∞/∞

 MP:∞/∞



 攻撃力 :Lv.∞

 防御力 :Lv.∞

 魔法力 :Lv.∞

 魔法防御:Lv.∞

 素早さ :Lv.∞

 運 :Lv.∞



 魔法属性


 全属性:Lv.∞



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 ⋯⋯なんともまぁ、チート過ぎる能力だった。

 そんな最強過ぎる俺は、難なく魔王城を突き進み、魔王の攻撃も何のその。すり傷ひとつ負うことなく、伝説の剣ひと振りで魔王を倒した。



 ◆



 ───あれから10年。


 俺は豪華な屋敷に引きこもっていた。

 最強過ぎる俺は、最大の敵! ⋯⋯のはずだった魔王をあっさり倒してしまい、魔王討伐以降やることが無くなった。

 魔王のご褒美に、この屋敷と金銀財宝を国王から貰った。最初は大金に興奮し、散財⋯⋯と思ったが、この異世界娯楽がほぼなくそんな金を使う場所がなかった。

 じゃあ、金もあるし美味くて高い物を食べよう! と思ったが、高い物も美味くなかった。

 異世界転生モノでよくやってる「美味い飯が無いなら、作ればいいじゃない!?」は、カップ麺くらいしか作ったことがない俺にはハードルが高過ぎて断念した。




「あーあ⋯⋯。異世界もつまんねぇな」




 広い屋敷に、俺の声が響いた。




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