第2話
「しないって言ってんだろ」
「なんでさあ」
「そもそも付き合ってすらねえだろ」
「付き合ってなくても結婚はできるよ?」
「金貯まってねえだろ」
「無くても結婚はできるよ?」
「アホ。建前くらいは式挙げねえと親父さんとお袋さんに示しつかねえわ」
製薬会社に勤めている陸くんは、きっと世の中の24歳よりも多めのお給料を貰っている。
でもカフェでバイトをしている私は、世の中の25歳よりも少なめのお給料だから、私たちはほとんど陸くんのお給料で生活をしていると言っても過言じゃない。
家賃とか食費とか光熱費とか保険料とか税金だとか、生きていくうえで絶対に必要なお金は際限なく発生するけれど、陸くんはその中から毎月必ず決まった額を貯金している。
しかも、それだけじゃなくて『自分のバイト代は自分の事に使え』なんて言ってくれる陸くんは、やり繰り上手にも程がある。
手際よくタオルを畳む陸くんを、頬杖付きながらにまにま笑って眺めた。
陸くんの横顔は静かで綺麗だ。陸くんはこっちを見ないけれど、私は私を見ていない陸くんの眼を見るのがいちばん好き。
だって客観的に眺めた方が、まるで絶対に手に入らないものみたいに思えるから。
しばらく陸くんを見つめていたら、こんもりとした洗濯物の山が眼に入った。
2日くらい前に、衣替えのために夏服を洗ったから今日は洗濯物がとっても多い。
ゆっくりと起き上がった私は、山のてっぺんに置いてあったエプロンを手に取った。
「おい。何してんだ」
「お手伝いでーす」
私が働いているカフェのビブエプロンは、濃いめのグレージュ色が陸くんみたいだから、とっても気に入っている。
グレージュは陸くんの色。クールなグレーと優しいベージュが、少しも濁らず混ざり合っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます