第1話

「陸くん!結婚しよ!」



大きな背中に飛びついた。リビングのラグの上に胡坐を掻いて、ついさきほど取り込んだ洗濯物を畳んでいた陸くんが前のめりになる。


でも私よりもずっと背が高くて、ずっと力のある陸くんは、「いってえよ」と呟くだけで少しも倒れ込んだりしない。凄いよ、陸くん。男らしいよ、陸くん。好きだよ、陸くん。



「まーた始まった」



うざったそうに言って、畳んだタオルを既に出来上がっていた山に重ねる陸くん。


このお家のタオルは茶色と白の2種類があって、茶色は陸くん用で、白は私用。


お洗濯担当の陸くんが念入りにパタパタと振ってから干してくれるおかげで、一緒に住み始めてから1年経った今でも、お家のタオルはふわふわと気持ちいいままだ。



「またじゃないよ?」


「昨日も言ってたの忘れたか?」


「そうだっけ?」



とぼけると、「脳みそ米粒かよ」と、陸くんが鼻で笑う。貴重な笑顔をゲットできたので、私の頬が勝手に緩まった。



「でも陸くんのこと大好きな気持ちは全然忘れないんだよね。きっと愛って、脳じゃなくて心臓に記憶されるんじゃないかなあ」


「お前は毎日絶好調にアホだな」


「えへ」


「つか良い加減に退け」



頭をぐわしっと掴まれて、そこら辺にぺいっと投げられた。



「しようよ、しようよ、結婚しようってば」



それでも諦めきれなくて、陸くんの隣をゴロゴロと転がりながら一生懸命に訴えかける。


ゴロゴロついでに陸くんを下から見上げると、なんだか新鮮な角度の陸くんに会えたから、ついついスマートフォンに手が伸びてしまいそうになった。


危ない危ない。1週間前に秘蔵の隠し撮りコレクションが見つかって、こっぴどく怒られたばっかりだったの忘れてた。

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