45:震撼する世界 ②/お祭の極意
視聴者数一五万人。
その数字がどれだけ凄いかと言うと……普段の
ちなみに、現在のナツクロちゃんねるのチャンネル登録者数は五万人ちょっと。登録者数の三倍て……。いや、話題性でとりあえずちょっと見てみた程度の見物客が大半なんだろうが、それにしても凄まじい……。
とはいえ、演者が観客にビビっていては始まらない。顔を出しそうになる臆病心を気合で克己し、俺は平常心に戻って配信を続ける。
……ナツカの方は全然素で平気そうなのはマジでなんなの? コイツの心臓はオリハルコン製かなんか?
「じゃ、ナツカそろそろ本題その①に行くぞ」
「了解ですよ!」
ナツカが頷くと同時、俺は端末ドローンを操作して次の画面を表示させる。
すると、画面に表示されていた『発表その①』というメッセージが変化し、『新物質名称発表』となった。
「ででん! このたび、ナツカさん達が発見した新物質の名称を全世界最速配信ですよ!」
「俺達が見つけたんだから最速配信なのは当たり前だろ」
ツッコミを入れてみたものの、リスナー的にはそれどころではなかったようだ。雄たけびを上げるコメントが大量に流れて来る。中には『ナツクロイト鉱石なんでしょ?』というコメントも流れて来るが、そこはご愛敬だ。正解だけども。
「この名前はですねぇ、ナツカさんたっての希望で得たねーみんぐらいつを使用し……真心を込めて考えてつけましたよ」
「昨日即興で命名してなかったか?」
そんな瞬時に真心って込められるもんなの?
「そしてその名前は『ナ』から始まり……」
「引っ張るな引っ張るな」
此処はそんな引っ張るところじゃねーから!
調子に乗ってウダウダやってるナツカの頭に軽くチョップし、俺は続きを促す。ナツカは不満そうに俺を見て、
「えー。ナツカさん的には重大発表なのでもうちょっと引っ張りたいんですけど」
「後がつかえてんだよ。コメント欄荒れるぞ」
一五万いるんだよ! しかもまだ増え続けてるんだよ! 迷宮省の公式配信くらいの勢いあるんだぞ!? 俺はもうさっさと発表済ませて配信を終わらせたいの!
「仕方がないですよ。今回ナツカさん達が発見した新物質の名前は──『ナツクロイト鉱石』ですよ!」
ナツカが高らかに宣言したのを見て、俺は端末ドローンを操作して画面表示を切り替える。
画面いっぱいに『ナツクロイト鉱石』という文字が表示されると、コメント欄の流れも一層加速した。
『うおおおおおおおおおおおお』
『知ってた』
『知ってた』
『うおおおお知ってたああああああああ』
『うわああああああああああ』
『知ってた』
……まぁだいたい知ってたってコメントだが。昨日配信で言ってたしな。
「この名前は、ナツカさんとクロが共同で発見したということを意味していますよ。イトは語感でつけました。その方がそれっぽいので」
「そういえば鉱石って名前の最後にイトがついてることが多いよな。あれ何でなんだろ」
『なんか石って意味なんじゃないの』
『ギリシャ語でiteは石って意味らしい』
『ギリシャ語博識ニキおる』
『正確には音変化してナツクライト鉱石が正しいんじゃ?』
へー、ギリシャ語なんだ。……あれ、ということは。
「ナツクロイト鉱石ってイトと鉱石で意味が重複してない?」
「こまけぇことは気にしないでいいんですよ」
『鉱石をつけるならナツクロ鉱石とかの方がメジャーな表記かな』
『だがもう正式名称はナツクロイト鉱石なのだ…プロが言ったから決定なのだ…』
『そもそも鉱石かどうかも曖昧だからな』
『そういう異界物質の名前ってことでおk』
ああ……。こうして変な名前が生まれていくのか……。
カーマイン砂漠の『ラアバ=クヌム』も日本人探索者が機械翻訳で命名したせいで、誤訳のまま定着してしまったっていうしな。
……ってうお!? そんなこと言ってたら視聴者数が二〇万を突破してる……!? もうさっきから他のデータが怖くて見れないんだが……。これ旋風どうなってるのか後で確認しないとだなぁ。
「じゃあ、ナツカ、そろそろ……」
「むん? 分かりましたよ。ではそろそろ本題の発表その②に移っていきましょう」
『胸騒ぎがする…』
『胸騒ぎがする…』
『何が出るかな~』
リスナーの反応を見つつ、俺は端末ドローンに念じて、次の画面を表示させる。
そこに表示されていた文言は──『ナツクロちゃんねるは、命名権以外のナツクロイト鉱石に関する権利を放棄します!!』だ。
「此処に書いてある通り、ナツクロちゃんねるはナツクロイト鉱石に関する採集権、加工権、販売権をきほんてきに放棄しますよ!」
『えっ』
『まじで』
きっと流れが凄まじいことになる……と思っていたものの、反応は意外にも複数個くらいのコメントがぽつりぽつりと流れるだけだった。
……あるぇー? なんか滑っちゃった? 発表の仕方もうちょい印象的にするべきだったか? 二〇万人いるのに……あ、二一万になってる。
「ただ、基本的に……と言っている通り、マイニングに関しては、ルールがある。そっちについても説明するから、ちゃんと聞いてくれ」
とはいえ説明を止める訳にもいかないので、『肝心なとこでスベったなぁ……』と少し残念に思いつつ、俺は補足を入れる。
さらに続けて、
「マイニングはさっきも言った通り基本的には自由だ。ただ、無秩序な自由だと色々と問題も起きるから、」
『マジで全部放棄すんの!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?!』
『バカやめておけって絶対後悔すんぞ!!!!!!!!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお解禁だああああああああああああああ』
『ありがとうございますありがとうございますありがとうございます』
『ごめんちょっくらTAL空域行って来るわ』
『うおおおおおおおおおおおおおおお』
『神』
『なんで?????????????????』
『↑話聞けって言われてんだろ』
『うわああああああああああああああああああああああああ』
『ちょっと涙出て来た』
『今ようやく理解できてきたんだけど採集権と加工権と販売権を放棄するってことでいい?』
うわっ! 急に凄い流れになった!
なんかラグかったんかな……。これ抽出表示になってるよな? それでも表示が追いついていかないんだが……。……これ書き込みが多すぎて表示が遅延してたとかか?
『俺TAL空域の前で門番しとくわ、絶対話聞かずにフライングするアホが出て来る』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
『探索しながら見てたらびっくりしすぎて今乙りました(報告)』
『「自治」系の人お疲れ様です』
『完全に話が変わって来た』
『戦国時代の幕開けやで いやほんとうに』
『ちょっと企画書作ってくるわ』
な、流れが止まらない……同接数がさっきから一万単位で減ったり増えたりしてるんだけど、これ何なの? 一旦配信を抜けて他の人を呼び込んでるのか? あ、二五万いった。
「ナツカ、どうしよう。なんか流れが凄いことに……」
「そんなの、説明を続けるしかないですよ。興奮して聞き逃した人がいてもアーカイブでまた見ればいいですよ」
「……そうだな」
隣のナツカはといえば泰然自若そのもので、あっさりとしていた。コイツ緊張することとかあるんか?
ともかく、俺はコメントの流れを無視して説明を続ける。
「改めてマイニングだが、基本的には自由なものの、入場や入場後の場所取りなどは、しばらくは迷宮省が管理することになる。……ということで、迷宮省の人と話が済んでる」
『そういえばヴィヴィアネは迷宮省嘱託だって噂聞いたことある』
『伏線回収……ってことかァ!?』
『伏線回収……ってことかぁ!?』
うお……流石ネット集合知。多分隠しているはずの情報なのに点と点を結ばれてしまった。まぁ、ナツカと心春さんのラインがバレるよりはマシなのでこれについては無言を貫いときましょう。流れが早かったって言ってすっとぼけてればいいでしょ。
「具体的には今日この後から迷宮省主催のマイニングイベントが開催される。マイニングはこのイベントに参加した探索者のみ行える形にする。ちなみに、イベントの参加費は無料。マイニングに際しても、報酬の類を支払う必要は一切ないので安心してくれ」
「イベントの名前は……『ヘヴンリーマインフェア』! さしずめ天空の採掘場といったところですよ」
この名称は、神座さんとの打ち合わせで決まったものだ。
といっても、神座さんがいくつか持ってきてくれた案の中から選んだだけだが。っていうかあの人昨日の今日であんだけしっかりしたイベント案を準備した上に名称案まで複数持ってきたとか、どれだけ仕事が早いんだろう……。
「そしてもちろん、このイベントの初日、即ち今日の回にはナツカさん達も参加しますよ! 配信も取る予定なので、参加できない人達も配信で楽しむといいですよ!」
コメント欄は相変わらず訳が分からないほど流れが速いため、俺はその中身を見ることを諦めて、続けて補足する。
「マイニングイベントはゴールデンウィークが終わる五月九日まで続く予定らしい。期間中は迷宮省による入場制限が入ってしまうらしいけど、最大入場人数は二万人まで許可されてるから、流通が滞ることはないと思う。その後は完全に開放されるから、自由にマイニングしたい人はその後で行くと良いぞ」
この辺りは、二万人制限と言いつつ実情はかなり大雑把に受け入れるつもりという話を神座さんから聞いている。
どうも、内部で色々と人の動きを管理する方法があるらしく、二万人よりだいぶ余裕があるとのことだった。
「で、何でこの判断に至ったかの話だが…………」
そう言って、俺は一旦言葉を止める。ナツカに話を振る為だ。
此処が、一番重要な話。何を思って権利を放棄したのか。これを説明しないと、ただいたずらに利益を投げ捨てただけの人になる。そうではなく、きちんと考えてあえて権利を放棄したのだと説明しないと、この権利の放棄は何の意味もない。
「──端的に言うと、お祭り感が欲しかったですよ!」
……その理由がこれでは、大して意味も変わらない気もするが。
「色々な話を聞いて、ナツカさん達はこの発見が大大大発見であると確信しましたよ。なんか新しいスタイルができるかも? とか聞きましたので」
「影響範囲が凄まじいと思ったんだよな。供給量を絞ったら、価格の暴騰とかそういうことが絶対に起きるだろうな……って」
「そういう話もありますけど、せっかくのお祭りムードなのに、ナツクロイト鉱石を手に入れられなかったせいで楽しめなかったり、手に入れられた人が楽しんでる姿を見て素直に楽しめない人が出てきたら、悲しいですよ。ナツカさんとしても、手に入らなかった人のことを考えて自分が楽しく遊べないのも嫌です」
ナツカはそう言って頷き、びっ! とカメラに向かって力強く指を差した。
「……ですので、細かいことを気にせず遊べるように、全部取っ払いました! ナツカさんの計らいです。思う存分──お祭っていいですよ!」
「お祭るってなんだよ」
その後も、この後の配信予定とか、ナツクロイト鉱石の簡単な挙動説明とか、そういう話をしたが──結局、最後までコメント欄の流れを把握することはできなかった。
ちなみに、視聴者数は最終的に三二万人になった。なにそれ、こわ。
あ、あとチャンネル登録者数は一〇万人になりました。一日で五万人は増えすぎ。
──そのほかの影響としては、『細かいことは気にせず楽しむこと』を『お祭る』と言うミームがど流行りして用語として定着するのだが、これはまぁどうでもいいことか。
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