05 百戦錬磨/撮れ高はバッチリ

「おい! 中突っ込むぞ!!」


 そう言って、俺は前方──即ち鬱蒼とした枝葉によって森林洞窟と化した並木道へと駆けていく。

 ナツカは驚愕しつつも俺に付き従いながら、



「大丈夫です!? こういうのって、開けた場所で対応するものだと思うんですけど! 森林の中に入ったら身動きとりづらくて囲まれちゃうんじゃないですか!?」


「そういうセオリーは分かってんのなお前!」



 眼前には、ムカデ型の迷獣モンスター──『フットレッド』。

 ランクマ勢の俺は、あまり相手したことのない迷獣モンスターだが──



「だが、だ!」



 確かに、奥まった方に移動するよりも、『壁』へ目掛けて撤退する方が移動距離は短いので一見すると安全に撤退できるように見える。

 だが、それは困難を克服することを諦めた人間の発想だ。

 此処で撤退しても、迷獣モンスターが消える訳じゃない。今から別の迷宮を探して移動するのも時間がかかる。

 それに、確かに大量の迷獣モンスターが押し寄せてきている現状なのは間違いないが──別に相手はこちらのことを探知して向かってきている訳じゃない。あくまで、物音に反応して移動しているだけなのである。

 それならば、現状への認識を切り替えてみるのも一興だ。たとえばそう──、みたいに。

 迷獣モンスターの注意が一点に引き寄せられているということは、逆に他の場所に関しては注意が引き離されているということだからな。此処さえ切り抜けられれば、むしろより安全に探索を進めることができるってもんだ。

 つまり、方針としてはシンプル。



「あえて、ここは突っ切る! ついて来いよ!」



 言って、俺はフットレッドの眼前に屈み込む。

 姿勢を低くした俺に合わせて首をもたげたフットレッドの顎を、俺は地面に手を着いて思い切り蹴上げる。ビリ……と足に鈍い感触が走るが、不意を突いたこともあってフットレッドはあっさりと枝葉の天井を見上げる形となった。



「虫系は外殻が硬くて人と勝手が違うからやりづらいんだよな……!」



 ぼやくと同時──屈んだタイミングで触れていた地面から、街灯が高速で伸びる。

 先端が鋭く尖った装飾の街灯が、上を見上げたことで生まれたフットレッドの外殻の隙間に滑り込むように突き刺さる。

 ガギャッ、と、フットレッドが声にならない声を発するが──関係なく貫通した街灯によって行動は停止する。



「おお! 凄い! 早速一匹やりました!」


「やってない! 虫系はしぶといからこの程度じゃ倒せん!」



 とはいえ、流石に首を街頭で貫通した状態では、知能の低いフットレッドなら引き抜くのも一苦労だろう。無力化はできたと判断していい。

 他の連中もフットレッド同士があまりに近くにいるので連携して動くこともできずにまだ足踏みしているらしいし……今がチャンス!!



「走れ走れ走れ!」


「うおー!」



 流石に此処で消耗戦を続けていたらじり貧すぎる。

 俺達はもがくフットレッドの横を通り抜けて迷宮の奥へと進んでいく──が。



「うわっ、追って来る!? 意外としつこいなコイツら! 虫のくせに!」



 予想に反して、フットレッド達は俺達のことを追って来た。どうやら獲物が逃げたことで、フットレッドの行動方針も確定したらしい。

 後ろから、数匹のフットレッドがこちらの方へ向かって追いかけて来る。……『手作りの絢爛カジュアルトーチ』の射程距離もあるしな……。最初の奴も頭数に入るとみていいだろう。

 とはいえ……、



「どうにかして撒けないか……? このままだとトレインになっちまうぞ」



 トレインというのは、迷獣モンスターを引き連れて迷宮内を移動する行為のことだ。

 語源は昔のオンラインゲームで敵キャラクターを倒さず引き連れる迷惑行為で、その語彙を拝借した異界迷宮ダンジョンにおいても、トレインは迷惑行為として扱われている。

 人気のない迷宮だからぶつかる心配はないと思うが、もしも奥まったところに移動してこの迷獣モンスターの群れと出くわしちまったら悪いしな。誰とも会わないうちに撒いてしまいたいのだが……、


 と思っていると、横を走るナツカがおもむろに口を開く。



「……仕方ありませんね。此処は撤退戦のプロであるナツカさんの出番ですか」


「もうその切り出し方の時点で非常に心配なんだけど、一応聞くだけ聞いておいてやろう」


「心外ですよ全般的に」



 悔しかったら自分の行いを振り返ってみるんだな。

 ともあれ、憤慨しつつもナツカは気を取り直して、



「さっきも言いましたけど、ナツカさんの『匠の愉快な名人芸フルリフォーム』は爆発のパラメータを割と自在に設定できます。威力を極小にして光と音のみにする……みたいなおよそ現実的でない調整だって可能なのです」



 それは確かにそうだったが……。……あ、だとすると。



「つまり、」


「逆に、音や光を消して威力だけの『隠密爆弾』も合成できるってことか?」


「………………………………、」



 ……しまった。台詞を奪ってしまった。



「…………まぁそうですけど……」


「ごめんて」



 ついでに、そこまで設定できるなら爆風の方向や範囲を制御することとか、爆炎や爆煙への設定も可能そうだが、そこまで言うと本格的にへそを曲げてしまいそうなので黙っておくことにした。

 ……爆発特化のおふざけビルドかと思いきや、そう考えると意外と汎用性が高いな。素材を用意するという『合成』共通の条件と、本来もっと色々できる『合成』を単に接着だけにいる条件のお陰でその辺の性能の自由度が上がってるのだろう。これならランクマでも良い感じに使えそうだ。


 ともあれ、そういうことならこれ以上状況を悪化させる心配はなさそうだな。

 俺は頷いて、



「じゃあやっちまえ! 素材はこっちで用意する! 俺が合図したタイミングで起爆しろよ!」



 言いながら、俺は手に照明用ドローンを一〇個ほど発現する。

 『合成』の仕様にもよるが──俺の発現した『照明器具』の性能が維持されるのなら、ドローンみたいな俺の任意に操作可能な物品に起爆性を付与するのが圧倒的に強い。

 何せ、自由なタイミングで起爆できる空中移動する物体を好きに出せるんだからな。対人戦で実現したら最強すぎる。



「これを二つ一組で『合成』してくれ。計五つの起爆ドローンにして操作する」


「爆発威力はどのくらいにします?」


「最大は?」


「多分爆破圏内の木が炭になります」



 …………下手したら森全体が全焼しかねないな。

 道幅は……五メートル程度か。とすると……、



「爆発半径〇・五メートル、威力は至近距離で浴びたら肉が焦げる程度でいい。体内に直接叩き込むからな。もちろん音と光はなしで頼む」



 言いながら、俺はドローンをナツカに手渡す。

 ナツカはそれを受け取って手で押しながら(おそらく探索技能スキルの発動条件なのだろう)、



「設定は問題ありませんけど……体内に直接? 一応言っておきますけど、『匠の愉快な名人芸フルリフォーム』で付与した『起爆性』は合成物が破壊された時点で消滅するので、食べられたりしてドローンが壊されたら内部から破壊はできないですよ?」



 そう言って、出来上がった爆弾ドローンを俺に手渡す。俺はそれを受け取って、宙に浮かばせながら答える。



「正味問題ない。さっきのひと当てで、うまいことやる方法は考えたからな」


「ならいいですけど」



 ……うむ、『合成』でドローンの操作性が落ちるかもと危惧していたが、二つくっついたことで多少動かしづらくなったこと以外には大した影響はなさそうだ。精密動作は無理だが、直進・追随浮遊くらいなら問題なくできる。


 人間相手以外とるのはちょっと久しぶりだが……。


 よし。行くか。


 手足を程よく脱力させ、俺はその場で二、三回ほど軽く跳ねた。

 その周囲に爆弾ドローンと照明ドローン、撮影ドローンがふわふわと浮かんでいる。迫ってくるフットレッドとの距離は、およそ一五メートルほど。目に見える範囲にいる個体は全部で四体。最初に見たときは八体ほどいたはずなので、此処に来るまでで半分は撒けていたらしいな。後ろの方には……さっき穴を開けた個体もいる。よしよし、手間が省けるぞ。

 その状態で──俺は、周辺にある木の一本へと跳んだ。

 まず木の側面に手で触れ、触れた場所から街灯を発現する。先端が平たく足を引っかけられるようなデザインの街灯だ。俺はそこに足を引っかけ、街灯が伸びる勢いを利用してフットレッドに急接近する。

 五メートルほど伸びたところで街灯が伸び切ったので、そこでさらに街灯を蹴って跳躍。天井を形作っている枝のうちの一本を掴むと、俺はそこで腕の力を使って体を揺らし、ブランコの要領で加速をつけて上方からフットレッドへ飛び掛かった。


 キシャア、と大口を開けて、フットレッドどもが俺の接近を待ち構える。

 想定通りの動きだ。急加速で虚を突いたとはいえ、彼我の距離は一五メートルあったからな。迷獣モンスターならばよほどのんびりしたヤツでもない限り対応できる。──が、この急加速は俺にとって策でもなんでもない準備運動。この場合、上方からの接近がブラフだ。



「『手作りの絢爛カジュアルトーチ』。既に枝を掴んだ時に



 ランクマ配信の時の癖で、俺は迷獣モンスター相手に宣言するように言ってしまった。配信的に映えるから、探索技能スキル名の宣言と行動の開示はほどほどにやっちゃうんだよな。

 で、そんな俺の手には──電飾がくっついたコードの束が握られていた。


 クリスマスツリーに飾るような電飾も、大きな括りでは『照明器具』の一種である。これを枝葉で形成された天井を起点に生やすように発現すれば、即席のロープが完成する訳だ。

 そしてこれを掴んでいるということは、俺は完全には落下せずフットレッドの上方に留まるということで──つまり、俺を迎撃するつもりだったフットレッドは迎撃のタイミングを空振りするということになる。

 で、



「んでもって、本来の使い方を忘れちゃいけないよな」



 直後、電飾コードが一斉に点灯しだす。これ自体の光度はそこまで高くないが、そもそもが明かりの乏しい森林の中だ。そんな環境で生息している虫型迷獣モンスターが光に強い訳がなく、一気に注目がそちらに集まり、一瞬ではあるものの行動に空白が生まれた。

 その隙に、俺はコードから手を離して安全に地上に降り立つ。必然、迎撃タイミングをフットレッドどもは、全員一様に頭上を見上げる体勢のままになる。

 そう、俺が先程蹴り上げて外殻の隙間を晒させた個体と同じように、だ。



「決まり手が同じなのは芸がないから好きじゃないんだが……贅沢も言ってられまい」



 ──電飾コードを形状と点灯で二度利用したから、芸術点としては及第点としておいてくれ。


 俺は誰に言うでもなく言い訳しつつ、地面に触れたところから高速で街灯を伸ばす。一気に伸びた三本の槍は、過たずフットレッドの外殻の隙間を貫き、そして即座に解除される。

 後に残ったのは、フットレッドの外殻を抉じ開けて生まれた風穴のみ。それこそ、



「ナツカぁ!! 一秒後! 全起爆!!」



 自分の仕事が完了したのを見て取った俺は、そのまま飛び退いて爆破圏内から離脱する。

 思考制御で起爆用ドローンを風穴の中に突っ込ませ、



「いぃーち!」



 律儀に一秒カウントしたナツカの方へ、思い切り跳躍した直後、だった。

 ぼひゅっ……という掠れた音のあと、背後で何かが飛び散る音が聞こえた。

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