第30話 氷に閉ざされた25階層
25階層に足を踏み入れた瞬間、俺は息を呑んだ。
本来なら霧が立ち込めるはずの空間が――凍りついていた。
床は鏡のように滑らかな氷に覆われ、天井からは無数の氷柱が垂れ下がる。まるで洞窟全体が氷の棺に閉ざされたかのようだった。
「……ギルドの記録と違う」
思わず声を漏らす。
25階層は“霧の階”とされている。だが今、目の前に広がるのは、極寒と氷の世界――明らかに異常発生している。
「寒い……」
ユキが肩をすくめ、白い吐息をもやす。
皮膚に突き刺すような冷気が、じわじわと体力を奪っていく。足元の氷は時折きしみ、ひび割れるたびに底知れぬ裂け目が顔をのぞかせた。
「……一歩間違えれば、落ちるな」
俺はユキの肩に手を置き、慎重に前を進む。
氷の柱が立ち並ぶ迷路のような空間、光の反射で視界は揺らぎ、距離感を狂わせる。普通の感覚では、到底突破は難しい。
そのとき、ぼんやりとした氷煙の中から、影が滑るように現れた。
「……敵だ、ユキ」
氷に適応した異常種――氷蜥蜴(アイス・リザード)が姿を現す。氷結した鱗を光らせ、獰猛な眼光でこちらを睨んでいた。
ユキは静かに構える。体を巡る氷の結界が、冷気の中でほのかに光を放つ。
俺たちは一歩一歩、慎重に距離を詰める。
最初の一撃――氷蜥蜴の尾が振り下ろされる。氷柱を叩き割り、鋭い音が響く。
ユキは身をかわし、わずかに間合いを取る。
「……これは、きつい戦いになるな」
俺は呟き、心の奥で覚悟を固める。
氷に閉ざされた過酷な環境で、俺たちはまだ、本当の試練の入口に立ったばかりだった。
氷蜥蜴が尾を振り下ろす。床の氷が大きく割れ、周囲に細かい氷片が飛び散る。
その一撃で体勢を崩したら、下の裂け目に落ちてしまいそうだ。
「ユキ、右だ!」
俺は叫び、氷の裂け目を避けながら指示を出す。
ユキは瞬間、氷結した結界を瞬時に変化させ、尾の衝撃を跳ね返す。
“氷牙結界”――その防御スキルはまだ完璧には使いこなせていないが、極寒の環境でもユキを守るには十分だった。
氷蜥蜴はすぐに反撃に転じる。氷の爪で氷柱を叩き割り、破片が飛び散る。
ユキは素早く身をかわしつつ、鋭い氷の爪を敵に向けた。
「……まだ様子見か」
ユキの瞳にわずかに光が宿る。
氷蜥蜴の動きは予測しやすいとはいえ、滑る氷と寒さが足を取る。この環境では、ほんの一瞬の油断が命取りになる。
一度距離を取ったユキが、氷の結界を拡張して氷蜥蜴を押し戻す。
敵は咆哮とともに氷の壁を破り、再び襲いかかる。
だが、その攻撃は結界に弾かれ、わずかに後退する。
「……なるほど、この階層、環境も敵も容赦ないな」
俺は氷の床に注意しながら、次の行動を考える。
ユキも小さく頷き、冷気に包まれた氷の迷路の中で互いの呼吸を合わせる。
――過酷な環境での最初の戦闘。まだ本番ではない。
だがこの一撃一撃が、俺たちの命と成長を試す序章だ。
氷に閉ざされた25階層――俺たちは、ここからさらに深く、過酷な試練へと歩みを進めることになる。
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