第24話 唐の使節団

「驚いたか。」


「うん。みんな乗りこなしているんだね。」


「要領はつかめたからな。」


「でも、ボクの作ったやつはボコボコだね。」


「やっぱり接岸する時に岩とかにあたるからな。」


「先端と、両方の側面だね。じゃあ、新型を作りましょうかね。」


「新型?」


「うふふ。楽しみにしていてください。」


 カグラは、みんなから意見を聞きながら新しいヨットを作り始める。

 チタンで12mの竜骨を作り、フレームを組み上げてアルミを張っていく。

 船体を3区画に分けて、密閉空間を作り上げマストを建てる。

 甲板には手すりをつけて船倉も確保し、舵は操舵室で操れるようにする。


 船側と船首にはゴムでタイヤ状のクッションを設置し、衝撃を吸収できるようにする。

 そして、帆は厚手の麻で織りあげ、それをゴムでコーティングしてある。

 ヨットには底にセンターボードがあるため、停泊場所として専用の桟橋も作ってやる。


「5・6人くらいで乗船してください。」


「慣れてきたら、漁に使ってもいいのか?」


「好きなように使ってください。このクッションは水に浮きますから、誰か海に落ちたら固定してる縄を解いて落ちた人に投げてあげてください。」


 ゴムが手に入ったために、船倉に降りていくハッチも完全に密閉できるようになっている。


「使っていて気付いた事があれば言ってください。次に来た時に、2隻目を作りますから。」


 カグラは島の3箇所に井戸を作った。

 淡路島は小規模で急な川が多く、淡水の確保が難しい島なのだ。

 そのため、町中への井戸設置は町民から歓迎された。


 京に戻ったカグラは、井戸の普及をすすめたのだが、井戸と手洗いの普及に思わぬ邪魔が入った。

 

「寺から異議が申し立てられた。」


「何のですか?」


「土の下から吸い上げた水など、水たまりと同じで不衛生だとな。」


「それで?」


「その水で手や口を洗など言語道断だと申しておる。」


「はあ……。それで、誰が?」


「大僧正の一人、覚蓮坊だ。」


「かくれんぼう?」


「がくれんぼうだ。今は東寺に滞在しているという。」


「ボクが直接行っても良いのですか?」


「好きにしろ。坊主は好かん。」


 桓武天皇は寺に対して好感は持っていなかったようだ。

 平安京には東寺と西寺しか建立させず、それ以外は既存の寺しか認めていない。

 カグラは東寺に出向いて大僧正への面会を求めたが、出てきたのは大僧都という3番目の位にいる坊主だった。


「何の用だ?」


「覚蓮坊様がご存じないようなので、唐の最新情報をお伝えにきました。」


「なに?」


「この寺に、唐への渡航経験のある者はいますか?」


「今はおらぬ。」


「やはり。それではご存じないのも仕方ありませんが、唐では地の下から水を汲み上げる井戸というものが増えてきています。」


「なにぃ?」


「これをご覧ください。」


 かぐらは持参したガラスの筒の中に、石・砂・炭を詰めて坊主に確認させた。

 

「実際には、土の中に落ち葉が細かくなったりしたものが含まれていますが、分かりやすくするために炭を使っています。ここに水を注ぐと最初は炭の粉が混ざりますが、じきに透き通った水が出てきます。」


「それがどうしたというのだ?」


 カグラはそこに泥水をすくって入れ、出てきた透明な水を坊主に示した。


「このように、土の中に浸みこんだ水は、奇麗にろ過された状態で出てきます。」


 カグラはその水を一気に飲み干して見せた。


「土を通した水はきれいに浄化された水になる。だから、唐でもこの水を飲用に使うし、浄化されたものだと認めているのです。」


「ば、バカな事を……」


「唐では常識なのですが、信じられませんか?」


「当たり前だ!土で汚れた水など……穢れているに決まっている。」


「だったら、唐から帰った者に聞いてみてください。井戸により、水場から離れた場所で生活する者も奇麗な水を手に入れる事ができ、遠くから水を運ぶ労働から開放されているのですよ。」


「……」


「大僧正様ともあろうお方が、それをご存じないとは思えません。きっと何かの勘違いなのだと思います。これは置いていきますから、よろしくお伝えください。」


 カグラはそれで引き上げたが、寺から何か言ってくる事はなかった。


 寺とは逆に、神社からは井戸の要望が殺到した。

 これには、地元出身のサクラの影響も大きかったが、手水場を設け手洗いとうがいを習慣化するのに大きく役立つ事になる。


 そして春になり、ククリは蝦夷へと旅出った。

 サクラは井戸の設置に奔走し、カグラは南部方面への井戸設置と、船の開発に費やしている。

 

 既に、淡路島では縦帆と横帆を組み合わせた20m級の船を開発しており、帆の向きもハンドルで操作できるようになっている。

 これには、20人から30人が乗りこみ、沖に出てカツオやマグロの漁にあたっている。


 船体には木が使われ、それを秋田地方から取り寄せたアスファルトで接着しつつ、防水加工を施すなど進化している。


 カグラも、追加でゴムを補充し、次はいよいよ30m級の帆船を作っているところである。

 船を作る場所も、備後や肥前などに技術者を分散して、複数個所で製造を行っている。


 そのため、国の間で人的な交流も進み、同時に知識と技術が拡散していく。


 淡路島で作られた20m級の帆船は、屋久島を経ておきなわまで到達しており、物流も加速していく。

 

 やがて夏を迎え、カグラも7才になる。

 日ノ本全体では、30m級の帆船が7隻就航し、台湾までの物流が盛んになると、北からは主に小麦が出荷され、南からは砂糖が全国に広まっていく。


 ククリの奮闘で、蝦夷から本土に留学する者も現れ、日ノ本全体が活気づいてくる。

 半島までは頻繁に往来が始まり、長安までは行かないものの現在の上海である華亭県との交易が開始される。


 日ノ本からはアルミやおきなわ方面の貝細工が輸出され、唐からはコメ・キビ・工芸品などが輸入される。

 日ノ本は既に仏教に興味を示さず、逆に井戸ポンプなどの再現不可能な物品が重宝されていく。


 そして、これらは唐の興味をひいた。

 時の皇帝徳宗は、日ノ本天皇に対し井戸ポンプ等の技術を供与するよう通達をよこしたが、桓武天皇はそれを突っぱねた。

 知りたければ日ノ本へ来て学べというのである。

 これに対して皇帝は怒り心頭であったようだが、背に腹は変えられず、唐は使節団を派遣してきた。

 

 筑前に到達した唐の使節団は、まず、伝送装置で日々行われる会議に驚いた。


「これは何だ?」


 当然であるが、通訳を介すので小国を見下す態度があからさまであったため、対応した国司は激怒した。


「唐では、教えを乞う相手に、そのような横柄な態度で話すのか?」


「うっ……」


「そのような態度では話しにならん。出直してこい。」


「す、すまない。それは、……何ですか?」


「離れた場所に、声を伝える道具だ。」


「どうやって?」


「秘密だ。これは教えられん。」


「バカな!我々は皇帝に派遣された使節団だぞ!」


「だから何だというのだ。井戸ポンプの作り方は教えてやるが、それ以外はダメだ。」


「くっ……では、どこと話しているのだ?」


「この筑紫全部と、平安京だな。」


「周辺の都市だけではないのか!」


「日ノ本の中央政府と、この地域の国との話し合いだな。」


「バカな!そんなことが……。それを見せてくれ。」


「ダメだ。」


 同行した絵師が、伝送装置を必至になって描いているが、正面だけで仕組みが分かるハズはない。

 唐の役人は項垂れて部屋に帰っていった。



【あとがき】

 唐からの使節団……

 

 キャラメルを電子レンジで溶かして、キャラメル味のポップコーンを作ろうと思ったのですが、器にキャラメルがこびりついたりしてうまくいきません。

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