第25話 決別
カグラは、唐からの使節団を魔力で監視していた。
カグラにとって、大陸の人間は平気で決まりを無視する。
禁止されていても無視して伝送装置の仕組みを探ろうとする事は予想できたのだ。
だから、伝送装置の部屋にヨッチを待機させておいたのだ。
「何の用だ。」
「〇×〇……」
通訳ではなく、役人だったので言葉は通じない。
唐の言葉でまくしたて、部屋に入って来ようとするため、ヨッチを操作して無力化する。
あばら骨の2本くらいは折れたかもしれない。
そして、男を担ぎあげて部屋まで連れていく。
「何があった!」
「禁止した部屋に無断で立ち入った。」
「だ、だからって……、こんな真似をしてただで済むと思っているのか!」
「それは、こちらのセリフだ。これ以上お前たちに教える気はない。国に帰るがいい。」
「貴様、唐に敵対するというのか!」
「盗人は相手にしない。そもそも、使節団ならば、貢物くらいは用意してくるのが礼儀だろう。」
「我ら唐の者が出向いてやったのだ。これ以上光栄なことはあるまい。」
「そのような国はもう相手にしない。」
「なに!」
「ちょうど遣唐使もお前たちと一緒に戻ってきたところだし、華亭県での取引も終わらせよう。」
「本当に帰ってもいいんだな。後悔する事になるぞ。」
「我らが後悔する理由などない。まあ、お前らが手ぶらで帰って処分されない事を祈っていてやろう。お前らが帰る前に、書状を送っておくからな。」
「なにっ……」
「お前らがあまりに無礼な真似をするから追い返したとな。」
「バカな!無礼なのはお前らの方だ!」
こうして使節団は追い返した。
国司の館に待機していたカグラは、伝送装置の前に行き船を呼び出した。
外洋航海をする船には、伝送装置を設置してあるのだ。
そして、伝送装置搭載の船や各国は、24時間体制の3交代で通信士が待機しているのだ。
日ノ本ではそれだけ情報を重視しているのだ。
災害や事故に24時間備えているといえる。
「こちらカグラ。ワダツミ1号、聞こえますか?」
「こちらワダツミ1号。どうぞ。」
「唐とは全面的に交流を停止する。どうぞ。」
「あはは。やっぱり使節団がやらかしましたか。唐との断交了解です。明日中に華亭県到着予定ですので、これを最後にします。」
「それから、後で皇帝にあてた手紙を持っていきますから、それを相手に渡してください。」
「えっ。カグラさんがこっちに来るんですか!」
「何か欲しいものはありますか?」
「そうですね。カグラさん手作りの握り飯が欲しいですね。」
「くっ……、何人乗っているんですか……」
「63人ですよ。」
「りょ、了解です。そっちの天気はどうですか?」
「天気はいいですよ。」
カグラは中央に連絡して皇帝の書状を用意させ、同時におにぎり130個を頼んでおいた。
中央の通信士も船との連絡を聞いていたため、事情を話す必要はない。
カグラが京に戻ると、皇帝の書状とおにぎりに加えて大鍋いっぱいの味噌汁や漬物が用意されていた。
船に乗って外洋に出るという事がいかに命がけなのか、皆が理解しているといえる。
カグラたちの開発した船で危険は減ったといえ、それでも何かあれば簡単に命を落とす仕事なのは間違いない。
それが分かっているから、できる事は叶えたいという心が中央の役人にも芽生えているのだ。
カグラはそれが嬉しかった。
カグラは台所に行って、自分の手でおにぎりを握った。
小さな手では、どうしても不格好になってしまうし、そんな力もない。
だが、相手のリクエストは”カグラ手作りの握り飯”なのだ。
それを無下にする事はできない。
台所の賄いたちが笑顔で見守る中、カグラは不格好なおにぎりを2つ作って木の箱に追加した。
平安京から上海までは、直線距離で1300km。
時速300kmで飛んでも5時間近くかかってしまう。
ワダツミ1号は上海直前の海上にいた。
魔力で周囲を見ながら飛ぶカグラに、夜の闇は問題がなかった。
そして、青龍が静かに着水し、イッチの牽く牛車がワダツミ1号の甲板に降り立った。
時間は夜の9時頃になる。
降り立ったカグラを船員たちが歓声で迎える。
「お久しぶりです、カグラさん。」
「みんな元気そうですね。病人とかは出てないですか?」
「大丈夫ですよ。カグラさんの握り飯で、腹を壊すヤツが出るかもしれないですけど。」
「へえ。イッチ、それ海に投げ捨てていいわよ。」
「う、ウソですよ!」
牛車から運び出されたおにぎりと味噌汁漬物が甲板に並べられ、船員が囲んで味噌汁を椀によそって腰を下ろしていく。
「えっと、見るからにボロボロのヤツが2つあるんですが……、やっぱり腹を壊すヤツ……」
「何かおっしゃいました?」
「い、いや……、まあ腹を壊すんなら、俺一人でいいかなって、あはは。」
流通がうまくできるようになり、海苔など日持ちする商品は全国に行き渡るようになっている。
そして、具となる漬物や梅干し、干しカツオも同じである。
「うん。素材はちゃんとしてるから、旨いですね。」
「どういう意味かな?」
「い、いやぁ。カグラさんもあと10年経てば、いい嫁さんになると思うよ。あはは。」
「こんなに世の中が面白いのに、ボクが嫁になんて行くわけないでしょ。」
「へっ。……まあ、お子ちゃますぎて、そういうの分からないか。」
「知ってるかい?」
「何を?」
「ボクの役職は、天皇の相談役なんだ。」
「それくらい知ってるぞ。」
「例えば、淡路島出身の船大工に年頃の娘が近づく事を禁止する法律だって作れるんだよ。」
「な、何だよソレ!」
食事中の船員から爆笑が起こる。
「み、帝がそんな法律を許すハズがないだろう!」
「でしょうね。だからボクは、特定の船大工を名指しして、上陸禁止令を出せば納得すると申し出るんだ。」
「な、何だよソレ!」
「よし、ソコジは当分、上陸禁止だな。」
オーッと船乗りたちが合意する。
「ちょ、ちょっと待てよ。悪乗りすんじゃねえよ!」
「多少腕がいいとしても、ソコジの代わりになる船大工はいる。だがなぁ、カグラさんの代わりになれる人間なんかいねえんだよ。」
「そうだな。カグラさんがいなかったら、ソコジは淡路で一生小舟を作ってただろうな。」
「そうだ!カグラさん手作りの握り飯なんぞ、畏れ多くて手が出せなかったんだ。それを……お前は二つとも喰いやがって!」
「待て待て!見るからに不格好だから、お前ら手を出さなかったんだろ!」
「そんなわけあるか!その小さな手で握ってくれたんだと思ったら、それだけで胸がいっぱいになっちまってよ……くそっ!」
全員がその声に同感しているのがカグラに伝わり、カグラは目を潤ませた。
7才の自分に対して、こんなにも気遣ってくれる。やっぱり、この国の人々は優しいんだと、胸に刻み込んだ。
そして翌日、船は港に接岸し、カグラは船長に封書を頼んで船員2人とイッチを供にして町に出た。
流石に、唐の町は人が多く活気に溢れている。
楊貴妃が他界してから50年が経過していたが、それでも彼女を描いた絵や木彫りの像が店に置かれている。
「へえ、もう白磁が売られているんだ。」
「白磁?」
「うん。その白い器を白磁っていうんだ。」
カグラは横道に入り、数十キロ四方から金と銀を集め、1キロ単位で延べ棒にした。
「あっ。金や銀なんて要りませんよ。ここじゃあ、アルミが銀よりも高く売れるんです。」
カグラは、とりあえずアルミの延べ棒を10本作った。
【あとがき】
唐で買い物です。
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