第4話 魔人

「な、何よソレ……」


「んー、町の守護神みたいなものかな。」


「動かせるのソレ?」


「流石に、1000キロ以上あるから、普通じゃムリだよね。」


「じゃあ、何に使うのよ。」


「まあ、楽しみに待っててよ。」


 魔人像が完成した日の夜、サラは魔人像に魔力を込めて各部位を動かしていく。

 指・手首・肘……、動かすたびにギギギッと金属のこすれあう音がする。

 本来ならグリースを塗るのだが、この世界にそんなものはない。

 サラは獣脂にカルシウムを混ぜて魔人像の関節部分に塗布していく。

 これは、古代ヒッタイトが戦車の車軸に使った、最古の潤滑剤だ。


 こうして、魔人像は動作確認を終え、外に出される事となった。

 1トンを超える物体が2足歩行で移動するのだ。

 バランスを取るのも難しいが、ズシーンという振動が響き渡る。

 尻もちをつこうものなら、ドーンという衝撃が響き渡ってしまう。


 サラは慎重に魔人像を歩かせて町の外に出した。

 古代日本では、戦の事例は殆どなく、したがって西洋のような城壁は存在しない。

 町の外に出た時点で空が白んできたために、サラは魔人像を林の中に隠して布団に入った。


 その朝、町は大騒ぎとなっていた。

 夜中に響き渡った音や振動に気が付いていた者や、道に残された足跡と尻もちの跡を見たからだ。

 当然、サラは族長である祖父に呼び出されて大目玉を喰らってしまう。


「色々と非常識な事をするとは思っていたが、どうやってあれを動かした。」


「ま、魔力を使って……その……」


「魔力だと?なんだそれは。」


「ほら、お姉さま達も”清浄”魔法を使うではないですか。その魔法の元になる力ですよ。」


「清浄だと?あれは単なる”呪(ジュ)”ではないか?」


「呪っていうんですか……。ほらそれを使って火を付けたりするでしょ。その元になる力が魔力なんですよ。」


「そんな話しは聞いたことがないぞ。”呪”というのは、祝詞と訓練によって成就するもの。そこに何の力が必要なのだ?」


「えっと、祝詞を覚えて訓練しても”呪”を使えない人っていますよね。」


「ああ、確かに才能に恵まれない者もおるな。」


「それって、”呪”の元になる魔力がないからなんですよ。」


「では、魔力さえあれば、”呪”が使えるというのかよ。」


「そうなりますね。ただ、生まれつき魔力のない人に魔力を持たせるのは大変だと思いますけどね。」


「なぜ、お前はそんな事を知っておるのだ?」


「ボクにも魔力はなかったんだ。母様やエリス姉様が”呪”を使ってくれた時に、少しずつ魔力を分けてもらって、訓練して魔力を増やしていったんだ。」


「……ならば、お前は”呪”を使えるという事だな?」


「ボクの知っている”呪”の祝詞は”浄化”だけだよ。ほかの”呪”があるのなら教えてほしいくらいだよ。」


「良いぞ。ならば、”火炎の呪”から教えてやろう。庭に出なさい。」


「待って!お爺様は他の”呪”も使えるの?」


「火炎の他に”爆裂”の呪も使えるぞ。」


「じゃあ、僕も準備しておくから、明日お願いできますか?」


「良いが、準備なぞ必要あるのか?」


 この時代、文字は大陸から入ってきた漢字を使っており、それは大和朝廷の一部だけだった。

 古代日本では、文字を必要としなかったからだ。

 サラはその日のうちに、竹を切ってペンを作り、台所でススを掻き出して胡桃油を混ぜてアルミの墨ツボに入れておいた。

 紙は障子用の和紙がある。


 こうして、サラは火炎と爆裂の”呪”を覚える事ができた。


「これが、文字というモノの利点なのかよ。」


「そうだね。聞いたことを書き記しておく事で、何度も教えてもらう必要がなくなるんだ。」


「サラ、これって私も覚えられないかな?」


「大陸から伝わった漢字は難しいけど、カナだけなら46文字だから簡単だと思うよ。」


 その日から、毎夕食後にサラの指導によるひらがなの勉強会が始まった。

 手本として用意された50音表を家人20人が大声で読み上げ、その後で50cm四方の黒板にチョークで書いて練習する。

 黒板もチョークもサラの手作りだ。

 黒板はアルミの板にススの粉を焼き付けたもので、その表面をニカワでコーティングしてあり、チョークは石灰岩やタマゴの殻・貝殻を粉にして固めたものである。


 大の大人が、4才のサラに叱られている場面はシュールではあったが、1カ月もすると手本を見なくとも読み書きできるようになっていた。

 その次は、家の者が先生となって市中に広めていき、同時に”呪”の祝詞を文字として書き起こし、それを読み上げる事で”呪”を覚えていく。

 

「信じられん。こんな短期間で大勢が全ての”呪”を使えるようになるとは……」


 一方でサラの方は1日の大半をアルミの鍋や黒板・チョークの制作にあてていた。

 夜は魔人像を操る訓練である。

 斬撃だけでなく、打撃や蹴り・ジャンプに体当たりなど、日々その動きは洗練されていった。


 そんなある日、ついに大和軍の2陣が丘にやってきた。

 今回は3000近い軍勢である。


 サラは魔人を操作してその前に立ちふさがった。


「何者だ!」


「フフフッ、勿論カズサの者だ。ここはカズサの領地。速やかに立ち去れ。」


「笑わせるな。お前らこそムダな抵抗をやめて投降しろ。これだけの軍勢に太刀打ちできると思っているのか!」


 この時代の兵装といえば、短冊状の鉄板などを革ひもで繋ぎ合わせた鎧や寸胴型の鎧。

 半分くらいは鉄兜をかぶり、長槍を魔人に向けて構えている。


「やめておいた方が良いぞ。お前らの武器など、この体には傷すら付けられんのだからな。ともあれ、大将に取り告げ。お前らでは話しにならん。」、


 遠隔で操作するサラにとっては、ゲーム感覚にすぎなかった。

 空気を直接震わせて会話をするのだが、複数のボタン操作をしながらゲームをしている感覚になってくる。


「ならば、俺が話しを聞こう。中将の坂上太郎丸だ。」


「カズサ族長に連なるイッチだ。」


 咄嗟に浮かんだ名前がイッチだった。

 意味も背景もサラには分からない。


「カズサに、この兵力に対抗できる戦力がないのは把握している。悪いようにはせんから、おとなしく投降するんだな。」


「3年前は夜中の焼き討ちという卑怯な戦いで大勢が死んだ。だが、俺が気付いた後は、抵抗も出来ずに1000の兵が死んでいった。お前らは知る由もないだろうがな。」


「まあ、そう言うな。ヒタカミもワコクも、ヤマトの敵ではないのはお前も理解しているだろう。今はヤマトが一体となって唐に対抗せねばならぬのだ。」


「本気でそう思っているなら、なぜ焼き討ちなどという卑怯な戦法をとった。」


「それはな、ヤマトの力を見せつけるためだよ。力の誇示は必要だろ?」


「力というのは、あの時使っていた火の呪術の事なのか?」


「呪術?俺はよく知らんが、あいつらに対抗するのはムダな事だぞ。」


「その術も俺には効かぬ。今回は3000程度の軍勢らしいが、1万で攻めてもカズサは落とせんぞ。」


「それは弱ったな。俺も弱いもの虐めは好きじゃないんだが……」


「そういう安い挑発はやめておいた方がいい。言っただろ、その気になればこの程度の軍勢は、今この瞬間に抹殺できるんだぞ。」


「それも挑発だろ。」


 その時、サラを取り囲んでいた10人の兵士がガラガラと崩れ落ちた。


「な、何をした!」


「理解出来んだろうが、こいつらの回りの空気の流れを止めて二酸化炭素濃度を高めただけだよ。もう解除したから命にかかわる事はない。」


 呼吸による酸素の消費と二酸化炭素の増加は、思っているよりも急速に進む。

 締め切った車の中で外気を遮断すれば、ほんの5分ほどで車内の二酸化炭素濃度は1000PPMを超える。



【あとがき】

 奈良時代の生活レベルに現代人の知識を持ち込んでみました。

 ちょうどこの時代にタタミの原型が生まれていますが、ヤマトの高位の者しか使っていません。

 まだ、板張りの生活になります。

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